完敗するも針路が定まったイラク戦 痛恨の敗戦を価値あるものへと変えるため

川端暁彦

大島の自主的な判断にベンチも呼応

後半に自主的な判断でポジションを下げた大島。ベンチもそれに呼応した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 どうにも悪い流れの中で、選手たちは自主的に動き出していた。MF大島僚太(川崎フロンターレ)は「一回、原川力(愛媛FC)と自分のどちらかが(中盤の底に)落ちてゆっくりしっかりつなげればと思っていた」と、やり方を修正したことを認めている。つまり、インサイドハーフの2枚のどちらかがポジションを下げて、アンカーの遠藤を孤立させない形に変えたのだ。「相手の(アンカーである)4番(ムスタファ・ナズィーム)がセカンドボールを拾っている印象もあったので、そこで拾われないようにしたい」と大島が語るように、前に残った1枚は相手のアンカーに対応してプレッシャーをかける。そうした攻守の狙いを「ベンチからの指示ではなく自分たちの判断でやっていた」というのである。

 こういう書き方をすると「造反」などと言い出す向きもあるかもしれない。が、サッカーはゲームが生きているスポーツであり、ベンチからの指示を待って対応するのでは遅きに失するもの。この大島たちの判断を指揮官が「是」と見なしていたことは、後半16分にFW野津田岳人(サンフレッチェ広島)を投入し、中盤の底に2枚の選手を配置する4−2−3−1へとシステムを変えたことからも明らかだった。

 この流れで追い付ければ、痛快な試合になった可能性も高かった。実際に後半23分には、システム変更でトップ下へポジションを移していた中島が決定的なシュートを放っているが、これは相手GKに阻まれてしまう。そして後半27分だった。ゴール前右寄り(日本から見て左寄り)の位置から名手アドナンが放った左足FKが、見事に日本のゴールネットを揺らす。イラクで唯一の欧州組であり(トルコのチャイクル・リゼスポル所属)、昨年のU−20W杯4強メンバーでもある実力者が、その高いタレント性を証明するゴールだった。

 日本の決定機が決まらず、相手のFKが決まったこの一連の攻防で、勝敗はほぼ決着したかもしれない。ここからは互いに決定機の応酬だった。後半35分に岩波がFKの好機から決定的なシュートを放てば、その2分後と4分後にはイラク側に決定機。さらに後半40分には中島のシュートがゴール上へと外れ、42分には山中亮輔(ジェフ千葉)のクロスから室屋が右足で狙うも、これまた枠外へ。短いパスでどんどん仕掛けることができた日本の攻撃について、手倉森監督は「この世代の集まった選手たちの可能性なんだなと思わされた」。と同時に「あのチャンスが入らないでいると勝つことは難しくなる」ことを実感させられるものでもあった。

「まずは決勝に行って、そこでイラクと戦いたい」

 結局、スコアは1−3のまま動かず。日本は12年のAFC・U−19選手権、今年1月のU−22アジアカップに続き、またしてもイラクに敗北することとなってしまった。「同じ相手に3度も負けるのは本当に悔しい」。3試合すべてで先発している山中は、そう言って唇をかんだ。

 この敗戦が、心理的にダメージを残す可能性はある。しかし、試合後の選手たちから感じたのは逆の効用だ。イラクと決勝で再戦する可能性について問われたDF植田直通(鹿島アントラーズ)は「もちろん」と即答。「絶対に決勝に行って、最後は自分たちが勝つんだとみんな思っていると思う。まずは決勝に行って、そこでイラクと戦いたい」と強い気持ちをのぞかせた。山中もまた「イラクともう一度やるとしたら決勝しかないと思うし、そこまで絶対に残るつもりでやる」と語り、岩波は「今日の負けで大会が終わるわけじゃない。一つ一つ勝っていくことだけ考えて、決勝でやる」と断じた。

 手倉森監督は試合後、選手たちに「この大会のチャンピオンになれれば、今日の負けには意味があったことになる」とはっぱを掛けていたという。まずはネパールとの第3戦(21日)に勝って、グループリーグを突破する。そして目指すは10月2日の決勝戦。痛恨の敗戦を価値あるものへと変えるために──。チームの針路は、確かに定まった。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント