“眞鍋流”を支える敏腕コーチの人間力 バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第11回
眞鍋監督は「全面的に任せてくれる」
「日の丸もポールに揚げたい」との思いが、眞鍋監督の誘いを受ける決心につながった 【スポーツナビ】
08年ワールドグランプリの時、当時久光製薬の監督だった眞鍋監督とお会いする機会がありました。米国ナショナルチームでコーチをしていた私を初めて知った眞鍋監督は「なんで米国のナショナルチームでコーチができるんや」とおっしゃって(笑)。それまでの経緯をお話すると、面白がってくださり、米国の選手が久光製薬のチームに移籍するタイミングで、「コーチ兼通訳で久光に来ないか?」と誘ってくださったんです。
――誘いを受けようと思った理由を教えてください。
北京五輪で銀メダルチームのコーチとして関われたことはとてもうれしく、光栄だったのですが、米国の国旗が上がっていく様子を見ながら、「日の丸もポールに揚げたい」とも思ったんです。日本チームのコーチになりたいと強く感じた瞬間でした。だから、帰国して眞鍋監督の元で勉強し直そうと決心できました。北京五輪が終わって2週間後には、久光製薬のコートに立っていました。
――眞鍋監督はどんな指導者だと思われましたか?
純粋に「日本にもこういう指導者がいるんだ」と思いました。眞鍋監督はさすが観察力が鋭くて、選手のちょっとした行動やしぐさからも特徴を見い出していく。ささいな精神的な変化も見逃しません。常に「この子はどういうタイプ・性格なんだろう」と考えているんだと思うんですよね。それはコーチ陣に対しても、です。そして一人一人に合った対応をする。それは本当にすごいと言うしかありません。
あとは、それぞれの役割を全面的に任せてくれることでしょうか。それは、私も見習って実践するようにしています。例えば、戦術・戦略コーチとして、練習やミーティングは私が仕切りますが、後のことは、それぞれの役割をスタッフに明確に伝えて任せます。もちろん相談されれば、「私はこう思うけど、どう?」と提案して自分でも考えてもらう。そうすれば、それぞれのコーチの色が発揮されるような、示唆に富んだ指導ができると思うのです。
選手の理解スピードを上げる状況作りを
戦略を考えることが一番の仕事ですし、コーチ陣をまとめることも大事です。同時に、チームとしての機能性を高める役割も眞鍋監督から任されていると思っています。つまり、選手の入れ替わりがある中で、チームが今どの方向に向かってどのような方針なのかを、どの選手にも分かりやすく伝え、高いモチベーションで臨んでもらえるようにする。そのためのアイデアは常に考えています。
――そのアイデアはどういったものですか?
チーム全体での“相互理解”を深めるための対策を練っています。簡単に言えば、ミーティングを開いて一つのテーマについて皆で話し合う。でも、それだと堅苦しいですし、ただでさえ、練習後に開くことが多いので疲れている選手に「面倒くさいなぁ」と思いながら参加してほしくない。そこで、ミドルポジション、サイドポジションなどのポジション別に、ミドル会、サイド会といった「女子会」のような名前をつけたフランクな会を開きます。
4〜5人のチームで試合のビデオを一緒に見ながら、「こういう視点で相手のスパイクを見れば、こういうブロックの判断ができるよね」といった内容を話し合うのです。今日のお題は「ブラジル」とテーマを与え、ブラジルの選手について思っていることを話し合う会もあります。「この選手、美人だよね〜」という雑談から始まり、「このスパイクの特徴は面白いかも」と、少しずつ核心をついた話に持っていく。もちろん、レギュラーだけでなく、ベンチに入っている選手も意見を言います。皆で思考を巡らせるため、一体感が生まれます。
初めて全日本に選ばれた選手は、やはり自分からコミュニケーションを取れない子が多いので、せめて同じポジション内でもそれが活発になれば、次第にチームの輪や団結は広がっていくと思うのです。
また、小さなミーティングで知識の土台を少しずつ作っておけば、実際にブロックコーチが戦略を提案した時に、選手たちはそれを吸収しやすくなる。
それは眞鍋監督の指導も同じです。眞鍋監督の指示を、選手たちが即座に頭で理解できれば、実際のプレーにもつながりやすくなります。そういった状況を作るにはどうすればいいかということを、私は常に考えています。
――チームの機能を高めるには、かなり細かいところまで考えてなければいけないんですね。
世界一が目標ですから。身長や能力で海外の選手に負けている中で、あらゆることをしないと日本は勝てないことは分かっています。その前提の中で、われわれは何ができるのか。眞鍋監督が立てた緻密な計画をスムーズに進めるためのサポートを、それぞれの役割を担ったスタッフが、全力で取り組むしかありません。あらゆる可能性を模索しながら、常に頭をフル回転させて、アイデアを出していくしかないと思います。
一見、そこまでやらなくてもと思う努力は、技術も戦略も体力もすべてが相手チームと互角に並んだ時に、最後の最後に抜き出てメダルの色が変わる要因になるかもしれない。そのためだったら自費で、ブラジルやトルコなど急成長しているチームに飛び込んで、戦略・戦術、コミュニケーションなど、ありとあらゆる部分を学んで、全日本女子チームに生かすことも必要だと感じています。センターポールに日の丸を掲げることを目標に、指導者の一人として、思いつく限りのことを実践していきたいと思っています。
プロフィール
1976年東京生まれ。順天堂大バレーボール部で活動。順天堂大大学院スポーツ健康科学研究科で修士号取得。2001年より渡米。北京五輪で銀メダルを獲得した米国女子代表チームのゲーム分析や技術指導を担当した。その後、久光製薬で眞鍋監督の元、コーチを務めたのち、全日本女子チームの戦術・戦略コーチとして、ロンドン五輪の銅メダルへと導いた。