錦織圭が呼び込んだ男子新時代=四大大会初Vならずも大きな収穫
錦織主導で“4強時代”が崩れた大会に
決勝は完敗した錦織は「トップ選手を相手に勝ち進んできたことには満足している」と語った 【Getty Images】
振り返れば、1回戦当日まで出場するかどうか決め兼ねて迎えた大会だ。多くを期待しないで大会に入り、徐々に自信を蓄積させ、第5シードのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)を4時間オーバーのフルセットの末に破り、さらに第1シードのノバック・ジョコビッチ(セルビア)を38本のウイナーで手応え十分に倒した。これほどの激闘に耐える体力への自信と、ファイナリストの実感、それが今回の最大の収穫ではないだろうか。
「グランドスラムのベスト4、ファイナルは夢の世界でした。それを実感できたこと。トップを相手に、最後までめげずに勝ち切れたことには満足していますね」
この決勝の舞台を一番見て欲しかったのはソニー元副社長の盛田正明さんだという。ジュニア選手の育成に熱心で、錦織もその援助によって13歳で渡米を果たした。いつもジュニアを激励しにグランドスラムを訪れるが、今回は都合で来ることができなかった。
「優勝は、(盛田さんが)いらしたときのために取っておくということで……」
最後にそう言って苦笑い。もう大丈夫だろう。
7月のウィンブルドンでは、錦織と同世代のラオニッチとグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)が準決勝に駒を進めるも、ジョコビッチとフェデラーに阻まれた。しかし今回は、錦織とチリッチが2強を葬った――2003年のフェデラーのウィンブルドン初優勝から始まった“4強時代”がついに崩れた大会と言っていいだろう。それを主導したのは確かに錦織圭だった。
いま、新たな時代が始まろうとしている。
(文:武田薫)