引退後から始めた意外な趣味 元バレー代表・山本隆弘の自転車ライフ(1)

田中夕子

意外と自転車は筋肉痛にならない

「最初は止まるのが一番怖かった」と語る山本さん 【スポーツナビDo】

――最初に自分仕様の自転車に乗った時の感想は?

 初めはおっかなびっくりですよ(笑)。サイクリングロードに出る前に、お店の中で実際に固定した自転車に乗って、前傾角度やブレーキのかけ方、ギアの入れ方、乗り出し方を教えてもらいました。最初は普通のランニングシューズで行ったので、ペダルに足をはめず、高さだけを調整しました。

 僕は左利きなので、自転車に乗る時も左から蹴り出して、止まる時には右足を地面につくクセがあったんです。自分の中でそれは普通なんだけれど、道路を走るとなると、すぐ隣に車が走っていることもあるので、右に足をついてしまうとものすごく危ないよ、と。バランスを崩したらそのまま車が走る車道に倒れてしまうこともありますから、「右足から蹴り出すように」と注意されました。

――蹴る、止まる、まさに基本からのスタートですね

 ホントに(笑)。自転車に乗っている時は、地面に両足のつま先がつくかどうか、という高さを維持しているので、止まろうとしても、普通の自転車を漕ぐ時のように足をつけば止まる、というわけではありません。

 最初は止まるのが一番怖かったですね。何しろ両足のつま先が地面にギリギリつくかどうか、という高さをキープしているので、止まる時はサドルからお尻を外して、足を前に出して地面について止まるんです。

 でも、初めはその動きが慣れないし、止まらなきゃ、と焦ってしまってお尻を外すことや足をペダルから外すのを忘れてしまうんです。何回も前のめりになったし、転んだし。幸いにもバレーボールで床に転がったりしていて、受け身は取れるほうだったので(笑)、ケガをしないですみました。

【提供:山本隆弘】

――バレーボールとは違う筋肉を使いそうですね

 でもね、意外と自転車は筋肉痛にならないんです。どうしても人間は太ももの前にある大きな筋肉、大腿(だいたい)四頭筋を使って足を振り上げてしまいがちですが、自転車に乗っている時は前部ではなく後部の筋肉で引き上げるというか、きちんと姿勢を合わせて、高さを合わせることで無理なく乗れて、漕げるようにできているんですよ。だから、自分に合った自転車に乗っていれば腰も痛くならない。

 最初は、1周6キロぐらいのアップダウンがあるコースを走ったんですが、乗り方の感覚が分からないうちは、どうしても強い筋肉を使って漕ごうとするから、腿がパンパンになってしまったし、2周しただけで疲れて進まなくなってしまったので休憩を入れたぐらいです。

 1つ1つ丁寧に教えてもらって、感覚をつかんでからは無駄な力を入れなくても前に進むようになって、坂道のあるコースを走っても筋肉痛になることもありませんでした。むしろバレーボールのほうが、何年やってもひどい筋肉痛でしたよ(笑)。
 最初は「怖かった」という自転車も、慣れるうちにこれまでは感じることのなかった楽しみに触れていく。2メートル超えの山本さん用特注自転車に乗って、サイクリングロードに繰り出したり、少しずつ、距離を増やしたり。

 競技者として「楽しさを感じる余裕もなかった」というバレーボール選手生活のころには味わえなかった、日常の空気や風を感じる喜び。自転車に触れ、走れば走るほどその楽しさにハマっていく山本さん。乗らなきゃ分からない自転車生活の魅力については、また次回のコラムで紹介したい。

2/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント