高い潜在能力を感じさせた手倉森ジャパン リオ、そしてロシアを目指す若き選手たち

中倉一志

日本サッカー界の未来に向かって

福岡で3日間のトレーニングキャンプを行ったU−21日本代表。ポテンシャルの高さを示し、順調さをうかがわせた 【中倉一志】

 強い日差しが降り注ぐ真夏の福岡で、8月11日から3日間、U−21日本代表候補トレーニングキャンプが行われた。直接的な目的は9月に韓国の仁川(インチョン)で開幕するアジア大会に向けての選手選考とチーム強化。しかし、手倉森誠監督が選手たちに求めたのは、日本サッカー界における自分たちの立ち位置と、その将来を担う役割を背負っている責任を自覚することだった。

「A代表を強くするためには、A代表に選ばれた選手たちだけが頑張るのではなく、そこへの底上げがしっかりされていなければいけないし、A代表を脅かす立場というのは、間違いなくこのチームでなければいけない。また、そうなるんだという覚悟を持って取り組んでいかなければいけない年代でもある。ワールドカップ(W杯)での敗戦後、日本サッカー界の中で自分たちが先陣を切って動き出すんだという意識を持ってトレーニングキャンプに臨む中で、あの結果(1分け2敗でグループリーグ敗退)はA代表だけの結果なのではなく、日本サッカー界がやってきたことの結果が出たという意識を持たないといけない。あの結果に対しては、自分たちの年代の選手たちも関係していることを意識しないといけない。W杯での思いがけない結果に対して覚えた悔しさや、情けなさを晴らすためには、W杯が終わって1カ月半がたったいま、改めて、その想いをよみがえらせる必要があると考え、念入りに話をさせてもらった」

 初日のミーティングは予定を大幅に超え、選手たちが練習場に現れたのは練習開始予定時間を30分ほど過ぎてから。手倉森監督は「福岡が思ったほど熱くないので、自分が熱くならなければいけないと思った」と独特な表現でとぼけてみせながらも、「いかに厳しい気持ちでU−21の活動に挑めるかということが大事。ただ呼ばれて代表で活動をするという軽い気持ちではなく、われわれには大きな役割があるのだということを、今日のミーティングでは理解させた。W杯で悔しい想いをした選手たちに代わってやらなければいけない若手選手の競争が、今日始まったという話をしてスタートした」と話した。

 8月11日はくしくも新たにA代表を指揮することになったハビエル・アギーレ監督の就任記者会見が行われた日。日本が4年後のW杯・ロシア大会に向けて歩き始めた日に、日本の将来を担う選手たちの活動が本格的に始まった。

バリエーション豊かなチームに

手倉森監督が選手たちに求めたのは、日本サッカー界の将来を担っているという自覚。自然と指導にも熱が込められた 【中倉一志】

 今回のトレーニングキャンプで最も強調されていたことは、チームにバリエーションを持たせるということだった。トレーニングでは、このチームがスタートしてから初めて4−3−3の布陣を採用。ポジションを固定せずに複数のポジションでプレーさせ、組ませる相手も頻繁に変えた。その理由を手倉森監督は次のように話す。

「W杯で優勝したドイツには周到な準備があり、その中にはバリエーションというものがあって、誰が出ても戦えるという準備が整っていた。自分は、この世代の監督として、そういったものを確立したいという想いがあり、日本人のポリバレント性みたいなところは作っていきたいと思う。もちろん、エキスパートを作るのもひとつの手段だが、そのポジションじゃないとプレーできないというのは、場合によっては弱点にもなってしまう。いろいろなことをやれるようにしておくことは、将来、選手のストロングになっていく」

 選手たちも意欲的に取り組んだ。「試合の流れによって臨機応変にやることは必要なこと。そのためにいろいろなポジションができるようにならないといけないと思っている。いろいろとチャレンジしたい」とは野津田岳人(サンフレッチェ広島)。また、左右のサイドバック(SB)でプレーした室屋成(明治大)は「両SBができるというのは大きいこと。もっと左SBでも高いパフォーマンスを発揮できるように努力しないといけないと思う。どんなポジションでもやれる選手がいい選手」と話した。

 そして戦術面で取り組んだのは守備の部分。強調されていたのはコレクティブな守備で、全体をコンパクトに保ち、守備陣形のニュートラルポジション、ボールを奪いに行くタイミング、ボールを奪う場所などについて、いくつかのバリエーションをチームに落とし込む作業が行われた。実質的なトレーニングは1日、しかもチームとして4−3−3の布陣でプレーするのは初めてということもあり、その完成度はまだ高いとは言えないが、選手たちに戸惑いは感じられない。「ボールを取らなければという意識が強く、若干、落ち着かないようには感じているが、今はそこに重点を置いているので気にしていない。良い方向に向かっている」とは手倉森監督。まずは順調に進んでいることが窺えた。

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著者プロフィール

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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