岩瀬仁紀 前人未到400Sの裏にある苦悩 それでも次へ、鉄腕の変わらぬ生き方

ベースボール・タイムズ

引退はきっぱりと否定

大記録の直後、落合GMから岩瀬に祝福と、次なる目標を伝える電話がかけられた(写真は落合監督時代の2011年のもの) 【写真は共同】

 だが、それが「クローザーの宿命」だと受け止めなくてはならない。そして、その苦しみからの解放を望むとすれば、それはこの世界から身を引くこと以外にないだろう。400セーブを区切りに引退――。しかし、岩瀬はその可能性をキッパリと否定した。

「最近思うことは、自分のゴールは一体どこにあるのかなって考えたりします。それがいつ訪れるかは分からないですね。ただ、とりあえず野球ができるうちは、しっかりやりたいと思います」

 苦しみから逃れるために引退の道を選ぶことはない。そう宣言したようにも聞こえた。そして、今現在も「野球ができる」状態であり、すなわちクローザーとしての仕事を全うできるとの自信に揺らぎはない。

「要は勝って終われれば傷つきはしないので。点差なりのピッチングはあると思いますが、それは勝つことが大前提。そうやって割り切って投げるようになってからは、いろいろな意味で難しくはなってますけどね」

 ある種の開き直りを持ちつつ、決してその責務だけは忘れない。単純ではないにしろ、数多くの修羅場をくぐり抜けてきたことで得たその考え方は、柔軟で、かつ強靭(きょうじん)さを兼ね備えた最善のものと言えるだろう。

 さらに指摘される衰えに関しても、まったくと言っていいほど悲壮感を抱いていない。年齢による変化は認めつつも、最後まで引退を連想させるような弱気な発言はなかった。

「若いころと変わった点? そこまで変わってはいないんですが、昔は意識しないでも低めに球が行っていたのが、少しずつ高くなってきている。今はいかにして低く集めるかを意識しています」

落合GMが示した次なる道標

 400セーブを達成した試合後、岩瀬の元に1本の電話がつなげられた。その相手は「クローザー・岩瀬」の生みの親と認める落合博満ゼネラルマネジャー(GM)。指揮を執った8年間のいかなるときも岩瀬に揺るぎない信頼を持って起用し続けてきた。いわば理解者だからこその賛辞が贈られた。

「少し電話で話したんですけど、『おめでとう』と言ってもらえました。ただ、『まだまだ、分かってるな』と……。その意味ですか? 500セーブですね。まぁ、一つ一つ頑張ります。500セーブを意識するんじゃなくて、これからも1試合1試合、とにかく毎日を一生懸命やっていくことで数字は上がっていくものなので、そのスタイルは変わりません」

 落合GMが愛弟子の偉大な記録をたたえながらも、即座に次なる道標を示したことには理由があるはずだ。確実に全盛期からの衰えを隠せなくなった今、一つの“区切り”を迎えることで自然と周囲は“引退間近”とささやき始める。勝手に作り出されるそんな風潮を打ち消す意味も込められていたに違いない。岩瀬本人も、その意味を瞬時に悟り、「500」という数字を口にした。そして、すぐに“次”へと目線を向けた。

「達成したらやっと解放されるのかなって。数字のことを言われるのは自分としてはあまり好きではないので。それにとらわれたくないですから。401セーブを目指して、また元の自分の形でしっかりやりたい」

 それから3日後の29日、広島戦(マツダスタジアム)。2点リードで迎えた延長10回裏、2死走者なしの場面でマウンドに上がると、丸佳浩にヒットを許しながらも続くエルドレッドをショートゴロに打ち取って通算401セーブを達成。さらに31日の広島戦では11年連続となるシーズン20個目のセーブも挙げた。

 たとえ衰えがあろうとも、現状として、技術、体力、気力のいずれも、マウンドへ上がることを阻むほどの障害には及んでいない。引退の時期も、その理由も、今はまったく見当がつけられない。一つだけ確かなことは、前人未到の境地にたどり着いた竜の鉄腕がこれからもマウンドに立ち続けることだ。

(取材・文:高橋健二/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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