岩瀬仁紀 前人未到400Sの裏にある苦悩 それでも次へ、鉄腕の変わらぬ生き方

ベースボール・タイムズ

予想外のボールで達成した大記録

前人未到の400セーブ。その背景には本人、そして両親の苦悩があった 【写真は共同】

「今回は一発で決めてやろうという気持ちでいました。(これまでの記録達成の節目は)今まで意識しないようにして、ずっと失敗ばかりしていたので。だったら今回は意識してやろうと思いました」

 2014年7月26日、ナゴヤドーム。中日・岩瀬仁紀の通算885試合目の登板は、首位・巨人を相手に3点リードで迎えた9回にやってきた。だが、2死まで順調に事が進みながら坂本勇人にタイムリーを浴びて1点を返され、なおも二、三塁で一打同点という困難な状況を迎えてしまう。ここで相対したのは阿部慎之助。そして、1ボール2ストライクと追い込んだ後の4球目は、投げた本人も想像し得ない1球となった。

「マウンドでつまずいてしまいましたね。投げた瞬間、自分でもどこに行くんだろうと。完全にチェンジアップでした」

 体勢を崩しながら投じた伝家の宝刀スライダーは、本人の意図とは無関係に変化した。だが、阿部がとっさに出したバットは空を切り、ボールはそのまま谷繁元信選手兼任監督のミットに吸い込まれてゲームセット。前人未到の400セーブ達成となった。

「2死を取ってから少し慌てたというか、急ぎすぎました。きちっとやることをやっていかないといけないということをあらためて思い知らされました。『もっとしっかりしろ』と、自分に言い聞かせたいですね」

 あまりに予想外の結末に岩瀬本人もバツの悪そうな表情を隠せず、お立ち台でも反省の弁を並べた。

大記録の背後にある本人、そして両親の苦悩

 400セーブ。誰も成し得たことのない偉業に、谷繁監督は賞賛の言葉を送った。

「バタバタしたけど、400セーブという、すごいとしか言いようがない記録を達成できて良かった。僕は佐々木(主浩)さんと岩瀬の球を受けてきたんですけど、2人は、同じように球場に朝来て、練習前、練習、練習が終わって試合が始まり、自分が出るまでの準備を同じルーティンでやっていけることがすごいなと思って見ていました」

 しかし、この“不変の毎日”の裏側には、本人にしか分からない苦悩があった。記者会見での「記録達成を一番に報告したい相手は?」との問いに、岩瀬は言葉を詰まらせ、目頭に光るものを見せた。

「ボク以上に痛い思いをしている両親ですね。自分も傷ついていますけど、それ以上に傷ついていると思うので……。本当は苦しいところを見せたくないんですけど、どうしてもそれが(両親には)分かってしまっている。分かっているからこそ、つらい思いをさせてしまっているので……」

 傷つく理由はいくつもあるだろう。時にクローザーはその試合のすべてをフイにしてしまう。「失敗=敗戦」なのだ。ゆえに批判の度合いも大きく、ファンから心ない罵声も浴びせられる。長いシーズン、1年を通じて相手に1点も与えないこと、一度も救援に失敗しないということは不可能に近いが、その立場にない者たちは「ほんの3つのアウトを取るだけ」と簡単に片付けようとする。岩瀬が積み上げてきた400という数字は、そんな周囲の身勝手な偏見に打ち勝ってきた数でもある。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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