ハメス・ロドリゲスの「天才」たるゆえん 川勝良一が語るホンモノの見極めと育成法
もうひとつの長所を備えることができるか
たとえば、ひとつすごく良い武器を持っている選手がいたとします。指導者としてその長所に磨きをかけて、伸ばすことは重要です。ただ、それだけではいけません。DFのレベルも上がっているし、対策されてしまいますからね。
日本の左利きの選手でよく見られるのは、右サイドからカットインをして、逆サイドのゴールネットに巻いて蹴るシュートが得意な選手。ただ、持っている武器が「それだけしかない」という場合もよく見受けられます。そんな選手は、言い方は悪いですが、「不器用」だとも言い換えられるでしょう。
すでに持っている武器に加えて、もうひとつの長所を備えることができるか。2つをセットにできている選手というのは、少ないように感じます。
ドリブルが好きな選手は多くとも、そこに岡崎慎司のような得点への強い「欲」も持ち合わせているケースは少ないんですね。「良いドリブルを持っているのなら、良いシュートを決めよう」、「ドリブルで抜け出したら、絶対にゴールを決めよう」と伝えていくことがまず必要です。「ドリブル」プラス「シュート」。それが組み合わせられないと、ただのドリブルがうまい選手になってしまいますからね。
レベルの高い“型”を持っているのならば、それをうまく出して、さらに何ができるか、というところをセットに考えてほしい。「特長をコンスタントに出すために、その助けになるようなものをもうひとつ持つ」という考え方が必要だと思います。
組み合わせで注意したいこと
得意のドリブルをするために足元で良いパスを受けたいのなら、ディ・マリアのように継続して走り続けるスタミナをつけて、積極的に試合の中でプレーに関与していくこと。そういう、組み合わせの仕方を指導したほうがいい。武器の使い道もしっかりと伝えて、試合で使えるように教えていく。持っている武器を助ける、もうひとつの武器を備えること。それらが組み合わさったときに初めて、試合で結果を残せる選手になっていくわけです。そして、人々の印象に残るプレーが見せられる。あの、J・ロドリゲスのゴールのようにね。
少しずつ、「特長を足していく」
いろいろな小さい武器、中くらいの武器を持っていても、最後の場面で使う武器に真のスケール感がなければ、特殊な選手という評価にはなりません。技術に優れていても、それを試合でコンスタントに使えなければ意味がない。それはただ器用な選手であるだけで、「サッカーが上手」とは言い切れない。さらに言えば、一部の特殊な天才にだけ言える“相手にとって怖い選手”まで達することは難しいでしょう。
ドリブルがうまい選手は、たくさんいます。その選手がしっかりシュートも決めるから特別な評価が与えられるのです。ドリブル以外に2つ、3つの特長を兼ね備えた選手を育てるために、指導者は何度もその重要性を伝えていく必要がある。少しずつ、「特長を足していく」作業をする必要があります。
一連のプレーの中に、大きな隠し味を潜ませること。現代のDFは、非常にコンパクトな陣形の中で、ゴールを奪われまいと集中力を保ってタフに守っているのですから、それを超えていくための「特別な工夫」が攻撃側には必要ですし、それができる選手が初めて、メディアが量産するような陳腐な意味ではなく、真なる意味での「ホンモノの天才」と呼ばれるのだと思っています。
ホンモノの天才の見極め方とは?
先のW杯で絶対的な個の不足を痛感させられた今だからこそ、異才を削って指導者の小さな枠の中に収まる凡才にしてしまう、この国の空気感自体を変えていきませんか? 京都サンガF.C.の現役監督である川勝良一氏が世界から学び、実体験で積み重ねた知見を元にして著した『ホンモノの天才の見極め方』(東邦出版)は、これまで「理屈では説明できない」とあっさり見限られてきた「天才」と呼ばれる選手たちの感性をロジカルに解説。新しい視点で「天才の楽しみ方」を学ぶことができる一冊となっています。
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