ハメス・ロドリゲスの「天才」たるゆえん 川勝良一が語るホンモノの見極めと育成法

田中直希

もうひとつの長所を備えることができるか

ディ・マリアもトップスピードで動いている最中に高度なプレーを複合して見せることができる。彼らのような選手を育てるためにはどうするべきなのか 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 では、今回のW杯で際立っていた、22歳にして大会得点王に輝いたJ・ロドリゲスのような選手を育てていくために、われわれはどうすればいいのでしょうか。先日発売された拙著にも、私なりの考えを書かせてもらいましたが、今回のW杯で見えた例を出しながら、提案していきたいと思います。

 たとえば、ひとつすごく良い武器を持っている選手がいたとします。指導者としてその長所に磨きをかけて、伸ばすことは重要です。ただ、それだけではいけません。DFのレベルも上がっているし、対策されてしまいますからね。

 日本の左利きの選手でよく見られるのは、右サイドからカットインをして、逆サイドのゴールネットに巻いて蹴るシュートが得意な選手。ただ、持っている武器が「それだけしかない」という場合もよく見受けられます。そんな選手は、言い方は悪いですが、「不器用」だとも言い換えられるでしょう。

 すでに持っている武器に加えて、もうひとつの長所を備えることができるか。2つをセットにできている選手というのは、少ないように感じます。

 ドリブルが好きな選手は多くとも、そこに岡崎慎司のような得点への強い「欲」も持ち合わせているケースは少ないんですね。「良いドリブルを持っているのなら、良いシュートを決めよう」、「ドリブルで抜け出したら、絶対にゴールを決めよう」と伝えていくことがまず必要です。「ドリブル」プラス「シュート」。それが組み合わせられないと、ただのドリブルがうまい選手になってしまいますからね。

 レベルの高い“型”を持っているのならば、それをうまく出して、さらに何ができるか、というところをセットに考えてほしい。「特長をコンスタントに出すために、その助けになるようなものをもうひとつ持つ」という考え方が必要だと思います。

組み合わせで注意したいこと

 ただ、今の育成年代の指導現場で見られがちなのは、「ドリブルが特長なら、しっかり守備もしておけ」と、「真逆のモノ」をセットにしようとすることなんです。攻撃の武器をW杯のような舞台でも使えるような特別なモノに進化させられるかどうか。そんな話をしているのに、いきなり守備の話を持ち込んでくるのは……。それって、逆の話だと思うんですよ。

 得意のドリブルをするために足元で良いパスを受けたいのなら、ディ・マリアのように継続して走り続けるスタミナをつけて、積極的に試合の中でプレーに関与していくこと。そういう、組み合わせの仕方を指導したほうがいい。武器の使い道もしっかりと伝えて、試合で使えるように教えていく。持っている武器を助ける、もうひとつの武器を備えること。それらが組み合わさったときに初めて、試合で結果を残せる選手になっていくわけです。そして、人々の印象に残るプレーが見せられる。あの、J・ロドリゲスのゴールのようにね。

少しずつ、「特長を足していく」

 選手それぞれに、好きなプレーがある。それを磨いていくことは大事です。ただ、その武器ひとつだけでは、いつか頭打ちになるでしょう。ヘディングだけは誰にも負けない? それはつまり、ヘディング以外のプレーに目をつぶらないといけないということでしょうか?

 いろいろな小さい武器、中くらいの武器を持っていても、最後の場面で使う武器に真のスケール感がなければ、特殊な選手という評価にはなりません。技術に優れていても、それを試合でコンスタントに使えなければ意味がない。それはただ器用な選手であるだけで、「サッカーが上手」とは言い切れない。さらに言えば、一部の特殊な天才にだけ言える“相手にとって怖い選手”まで達することは難しいでしょう。

 ドリブルがうまい選手は、たくさんいます。その選手がしっかりシュートも決めるから特別な評価が与えられるのです。ドリブル以外に2つ、3つの特長を兼ね備えた選手を育てるために、指導者は何度もその重要性を伝えていく必要がある。少しずつ、「特長を足していく」作業をする必要があります。

 一連のプレーの中に、大きな隠し味を潜ませること。現代のDFは、非常にコンパクトな陣形の中で、ゴールを奪われまいと集中力を保ってタフに守っているのですから、それを超えていくための「特別な工夫」が攻撃側には必要ですし、それができる選手が初めて、メディアが量産するような陳腐な意味ではなく、真なる意味での「ホンモノの天才」と呼ばれるのだと思っています。

ホンモノの天才の見極め方とは?

【ホンモノの「天才」の見極め方】

 サッカーの醍醐味(だいごみ)が「天才」と呼ばれる一部の選手たちが見せる想像を絶したプレーにあることは言うまでもありません。しかしながら、そうした異彩を放つ異才は、この日本という国においては育成の過程で淘汰(とうた)されがちでもあります。

 先のW杯で絶対的な個の不足を痛感させられた今だからこそ、異才を削って指導者の小さな枠の中に収まる凡才にしてしまう、この国の空気感自体を変えていきませんか? 京都サンガF.C.の現役監督である川勝良一氏が世界から学び、実体験で積み重ねた知見を元にして著した『ホンモノの天才の見極め方』(東邦出版)は、これまで「理屈では説明できない」とあっさり見限られてきた「天才」と呼ばれる選手たちの感性をロジカルに解説。新しい視点で「天才の楽しみ方」を学ぶことができる一冊となっています。

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