ハメス・ロドリゲスの「天才」たるゆえん 川勝良一が語るホンモノの見極めと育成法

田中直希

W杯で評価を高めたJ・ロドリゲス。彼のような「ホンモノの天才」とどう接し、育成していくべきなのか 【写真:フォトレイド/アフロ】

「ホンモノの天才」とはどういう選手を指すのか。現在、京都サンガF.C.の監督を務める川勝良一氏は、「特別な工夫」をできる選手こそがそう呼ばれるべきだと考えている。2014年の6月から7月にかけて行われたワールドカップ(W杯)・ブラジル大会でも、驚がくのプレーを見せてくれた「天才」が存在した。中でも川勝氏が最も衝撃を受けたのはコロンビア代表のハメス・ロドリゲスだったという。「後世に受け継がれるような、記憶に残る、特別にずぬけたプレーを見せた」と、その才能を絶賛する。

 J・ロドリゲスの天才たるゆえんとは何なのだろう。そして今後、日本がそういう選手をどう育成していくのか。川勝氏に持論を語ってもらった。

世界を驚かせたウルグアイ戦のボレーシュート

 今回のW杯では、驚くほどのプレーを見せてくれた「天才」がいました。そして彼らはまさに試合の勝敗を左右してもいました。こういった「ホンモノの天才」を正しく見極め、理解すること。またアンタッチャブルに映る彼らとどう接し、育成していくのか。それは日本サッカー界にとっても、大きなテーマだと思っています。

 中でも、新たなる天才として世界中の人々に認知されたと言えるのは、コロンビア代表のJ・ロドリゲスでしょう。例えばスイスのジェルダン・シャキリも良いプレーは見せていたけれど、驚くほどではなかった。最後のFKを決めていれば、また変わったかもしれませんが、後世に受け継がれるような、記憶に残る、特別にずぬけたプレーを見せたのは、J・ロドリゲスでした。

 ウルグアイ戦でJ・ロドリゲスが決めた、豪快なボレーシュートがありましたよね。全世界で何万回とリプレーされ、「今回のW杯で最高のゴール」と言われてもいます。

 あのゴールを見た人たちの多くが「すごい!」「天才だ!」と言ったのは、J・ロドリゲスがボールを受ける前にチラっと後ろを見て、背中方向にあったゴールの位置を確認したことではなかったでしょうか。ゴール方向を一瞬見たときに得た情報を、彼はその後のシュート場面に生かしています。確かに、その動作は凡庸な選手ではなかなかできないものでした。

天性を感じさせた胸トラップ

ゴール位置の確認、胸トラップ、ボレーシュート。J・ロドリゲスのゴールには3つの驚きと実践が含まれていた 【写真:ロイター/アフロ】

 でも、個人的に彼の天性を感じたのは、その場面ではありません。ゴールを見たあとに、胸でボールを受けつつ、すぐさま横に運んだ。そこに、一番の驚きを感じました。まるで手を使ったかのように、ボレーのし易い場所へボールを動かしたのです。J・ロドリゲス自身はそのとき、そこまで移動はしていない。スペースも限られていましたから。ギリギリ、ボレーができる位置に持っていくために、彼は胸を少しだけ反転させたのです。その幅は、大きすぎることもなく、小さすぎることもなかった。ちょうどいい位置までグッと運ぶ絶妙なものでした。そのバランス感覚、センスには、驚がくさせられました。

 そうしてボールを動かしたあとに、彼は腰をひねる感じで強烈なボレーシュートを放った。クロスバーのギリギリに決まったわけではなかったものの、しっかりとボールをミートできていて、ゴールに吸い込まれていきました。

 あのボレーには、「ボールを受ける前にチラっとゴールの位置を確認したこと」、「ボレーを打てる場所に胸トラップでボールを運んだこと」、「反転してのボレーシュートを決めたところ」という、3つの驚き、天才的な発想と実践が含まれていたのです。

 中でも特にすごかったのは、2つ目の、胸トラップですね。

ポイントは2つの要素を同時に出せること

日本戦でもゴールを決めたJ・ロドリゲス。このゴールにも、スピーディーな技術とスローな技術という2つの驚きがあった 【写真:ロイター/アフロ】

 日本戦でのゴールにも、驚かされました。カウンターから吉田麻也にフェイントで尻もちをつかせて、さらに川島永嗣の頭上を抜くループシュートをJ・ロドリゲスは決めた。吉田を転ばせるトップスピードでのクイックネス。そのあとには、急にスローになってGKのタイミングを外すシュートを冷静に打つ……。スピーディーな技術と、急激に止まったあとのスローな技術。先ほどのボレーのように、日本戦のゴールにも、2つの驚きがありました。

 ドーンと一発。豪快に決めるシュートにも、当然ながら素晴らしいものはあります。でも、本当に良いゴールというのは、天才的にうまい、またはすごいという要素が2つくらい入っているもの。だから、人々の記憶に残るんです。

 例えばアルゼンチン代表のアンヘル・ディ・マリアは、トップスピードで走り続けることのできるスタミナを持っていて、なおかつ高いシュートテクニックでコースを蹴り分けるシュートを打てる。常に動いて味方からパスを引き出し、さらにそこから長い時間、トップスピードで動けるのです。しかも、動いている最中に高いテクニックを出すこともできる。高度なプレーを複合して出せる点が、彼の際立つポイントです。ドリブルと、シュートテクニック。スプリントと、シュートテクニック。やはり2つのモノを同時に出せる選手というのは、特殊であり、希少なんです。だからこそ彼らは「天才」と称される。

 オランダ代表のアリエン・ロッベンもそうです。驚異的なスピードに加えて、シュートテクニックもある。彼のW杯での枠内シュート率は、95%だったらしいですね。

 先述したJ・ロドリゲスは、体のバランスがいい選手でもあります。それに、必要以上に自らの技術を出すこともしない。プレー中に周りの人が見えたとき、その選手を的確に使う判断にセンスを感じました。一言で言えば、「浮いていない」。ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドは、強さが際立つ選手ですが、時に「浮いている」。J・ロドリゲスは、23歳と若いにもかかわらず、そのあたりのバランス感覚がいい。これだけサッカーがスピーディーになっている時代に、良い判断と柔軟性を持った彼のような選手は、見ているほうにもインパクトを与えてくれますね。

天才を生かすための環境を整える

 ただ、彼らのように1人の個を前面に出す「天才」をチームの武器としても、研究されて抑えられてしまうんです。それをサポートするような、“もう一つの個”の存在も必要だと言えます。ディ・マリアが出場できなくなったあとに攻撃がリオネル・メッシ一辺倒になったアルゼンチン。ネイマール以外に変化を付けられる選手がおらず、攻撃に絡む人数が少なくて単調なリズムになってしまったブラジル……。2人が悪かったとは思いません。素晴らしい能力を持った選手たちですが、それを生かすための環境が整っていなかったとも言えます。

 それに、個に優れた選手が1回だけスーパーなものを出しても、それがゴールに直結しなくなってきているとも感じます。守備側の戦術は高度になり、それを崩すのは難しくなっていますからね。2つ、3つと、瞬時に良いプレーを複数出せないと、なかなかゴールを奪うことができません。

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