ハメス・ロドリゲスの「天才」たるゆえん 川勝良一が語るホンモノの見極めと育成法
J・ロドリゲスの天才たるゆえんとは何なのだろう。そして今後、日本がそういう選手をどう育成していくのか。川勝氏に持論を語ってもらった。
世界を驚かせたウルグアイ戦のボレーシュート
中でも、新たなる天才として世界中の人々に認知されたと言えるのは、コロンビア代表のJ・ロドリゲスでしょう。例えばスイスのジェルダン・シャキリも良いプレーは見せていたけれど、驚くほどではなかった。最後のFKを決めていれば、また変わったかもしれませんが、後世に受け継がれるような、記憶に残る、特別にずぬけたプレーを見せたのは、J・ロドリゲスでした。
ウルグアイ戦でJ・ロドリゲスが決めた、豪快なボレーシュートがありましたよね。全世界で何万回とリプレーされ、「今回のW杯で最高のゴール」と言われてもいます。
あのゴールを見た人たちの多くが「すごい!」「天才だ!」と言ったのは、J・ロドリゲスがボールを受ける前にチラっと後ろを見て、背中方向にあったゴールの位置を確認したことではなかったでしょうか。ゴール方向を一瞬見たときに得た情報を、彼はその後のシュート場面に生かしています。確かに、その動作は凡庸な選手ではなかなかできないものでした。
天性を感じさせた胸トラップ
そうしてボールを動かしたあとに、彼は腰をひねる感じで強烈なボレーシュートを放った。クロスバーのギリギリに決まったわけではなかったものの、しっかりとボールをミートできていて、ゴールに吸い込まれていきました。
あのボレーには、「ボールを受ける前にチラっとゴールの位置を確認したこと」、「ボレーを打てる場所に胸トラップでボールを運んだこと」、「反転してのボレーシュートを決めたところ」という、3つの驚き、天才的な発想と実践が含まれていたのです。
中でも特にすごかったのは、2つ目の、胸トラップですね。
ポイントは2つの要素を同時に出せること
ドーンと一発。豪快に決めるシュートにも、当然ながら素晴らしいものはあります。でも、本当に良いゴールというのは、天才的にうまい、またはすごいという要素が2つくらい入っているもの。だから、人々の記憶に残るんです。
例えばアルゼンチン代表のアンヘル・ディ・マリアは、トップスピードで走り続けることのできるスタミナを持っていて、なおかつ高いシュートテクニックでコースを蹴り分けるシュートを打てる。常に動いて味方からパスを引き出し、さらにそこから長い時間、トップスピードで動けるのです。しかも、動いている最中に高いテクニックを出すこともできる。高度なプレーを複合して出せる点が、彼の際立つポイントです。ドリブルと、シュートテクニック。スプリントと、シュートテクニック。やはり2つのモノを同時に出せる選手というのは、特殊であり、希少なんです。だからこそ彼らは「天才」と称される。
オランダ代表のアリエン・ロッベンもそうです。驚異的なスピードに加えて、シュートテクニックもある。彼のW杯での枠内シュート率は、95%だったらしいですね。
先述したJ・ロドリゲスは、体のバランスがいい選手でもあります。それに、必要以上に自らの技術を出すこともしない。プレー中に周りの人が見えたとき、その選手を的確に使う判断にセンスを感じました。一言で言えば、「浮いていない」。ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドは、強さが際立つ選手ですが、時に「浮いている」。J・ロドリゲスは、23歳と若いにもかかわらず、そのあたりのバランス感覚がいい。これだけサッカーがスピーディーになっている時代に、良い判断と柔軟性を持った彼のような選手は、見ているほうにもインパクトを与えてくれますね。
天才を生かすための環境を整える
それに、個に優れた選手が1回だけスーパーなものを出しても、それがゴールに直結しなくなってきているとも感じます。守備側の戦術は高度になり、それを崩すのは難しくなっていますからね。2つ、3つと、瞬時に良いプレーを複数出せないと、なかなかゴールを奪うことができません。