九州バスケ界が垣根を越えた新たな挑戦 選手発掘の裾野を広げた3日間のキャンプ

河合麗子

九州バスケ界の現状

コーチの指導に真剣に耳を傾ける参加者たち 【河合麗子】

 この画期的なイベントが開催された背景には、九州バスケ界が抱く強い危機感があった。

 高校世代は福岡第一や福岡大学附属大濠といったバスケの名門校がしのぎを削る九州だが、大学世代になるとそのレベルは一挙に停滞する。

 ここ数年、大学九州一を維持するのは日本経済大学だが、全日本大学選手権(インカレ)では初戦敗退が続く。九州の有力選手の大半が関東の大学に進学することも、この停滞スパイラルを深刻化させている。

 なぜ学生たちが関東にプレー場所を求めるのか? それは高いバスケレベルと、「バスケ選手としての就職」について有利な環境が関東にあるからだ。

 NBL/NBDLの場合、大学3年の12月1日から学生との直接交渉が可能になり、大学4年の4月1日からは契約条件の提示が可能になる。その参考となるのは、関東のリーグ戦や東京で開催されるインカレがほとんど。九州の選手達がNBL/NBDL参加チームの目にとまる確率はかなり低い。

 プロ野球の場合、各地方大会からスカウトが視察に訪れ、開花間近の選手達を発掘するのに対し、日本バスケの育成は関東などの都市圏に偏りがちで、間口が狭いと言えるのではないだろうか。

 日本経済大学バスケ部の片桐章光監督は、九州の学生たちの現状をこう語る。

「関東に選手が流れる傾向にあっても、金銭的な理由などで九州に残った能力のある選手は特にガード陣に複数いる。しかし、どうしても九州の対戦相手のレベルに合わせてしまって、大学でレベルダウンする選手が多い。また4年になるときに就職活動をしても就職が決まらず、インカレ前の大事な時期にバスケが二の次になる。3年の終わり位にプロや実業団チームから声がかかり卒業してもバスケを続けられることが決まっていれば、次の舞台に向けて体のケアをするなど、気持ち的にも向上していける。九州の大学のレベルアップのためにも卒業後の環境整備が必要だ」

チャレンジキャンプの意義と成果

 バスケットで就職するために必要なこととは何か?

 九州バスケ協会の鮫島理事長は、「スキルアップ」と「出口を作る」ことだと言う。スキルアップとは、もちろん選手自身のパフォーマンスとメンタリティーの向上。出口とは、協会や学連が九州の学生達でも就職を可能にする環境整備を行うことだ。

 この出口作りも考え生まれたチャレンジキャンプには、トライアウトの要素が組み込まれたことで、15歳〜33歳までという予想以上の幅広い年齢層が集まった。

 しかしチャレンジキャンプ初日、講師を務めた元レノヴァ鹿児島(NBDL)コーチで現在九州産業大学の吉村康夫監督がこう檄を飛ばした。

「君達からエナジーが感じられない!」

 バスケ選手になるための自分の見せ方に不慣れな九州の選手達の課題、ハングリーさの欠如を懸念したものだった。協会や学連がいくら環境整備を行ったところで、厳しいプロの世界の現実に打ち勝つ力を持たなければ、バスケで食べていくことはできない。

 初日から露呈したメンタリティーの課題だが、特に学生達は20代30代のプロを目指す参加者とともに切磋琢磨(せっさたくま)することで、課題克服に向けたヒントを得たはずだ。

 福岡でプレーする大学4年生は、「参加者の中にはプロ経験のある選手もいて、さまざまな人達の熱い思いに敬意を感じた。講習で学んだ技術を大学のリーグ戦につなげインカレで1勝以上を達成できるように努力し、個人的にもプロにいけるようにがんばりたい」と目を輝かせていた。

 また複数のチームのコーチ陣から「いますぐに契約というわけではないが、覚えておきたい参加者が数人いる」という話が聞かれた。頭に入れておかないと、業界の中ではスタートに遅れたが最後、他のチームに引き抜かれてしまう。コーチ陣も選手開拓の場を求めているのだ。

 九州バスケ界の危機感から生まれた「NBL/NBDLチャレンジキャンプin九州2014」は、新たな選手発掘のモデルケースを作った。選手発掘の裾野を広げることは日本バスケの実力アップにもつながる。リーグ間の垣根を取り払い、実力停滞の危機を脱しようとする九州の動きを見た梅雨明けの3連休、改めてリーグ統合問題の“雪解け”が、日本バスケ界の発展に欠かせないと感じた連休となった。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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