2軍で奮闘中、森友哉の現在地。一流の捕手へ 目指すは“無”の境地

中島大輔

一流の捕手になるために……

藤浪(右)の球を受け、「そこまでリードについて考えていなかった」高校時代だが、現在は配球、プロの駆け引きを勉強している(写真は1月の自主トレ時のもの) 【写真は共同】

 秋元コーチは春季キャンプで森を見て、まずキャッチングが目に付いた。捕手にとって、投手の球を捕ることはすべての原点だ。うまく捕球できなければ、盗塁を試みた走者を刺す際、送球前にボールを握る動作にも影響する。走者が三塁にいる場合、キャッチングの苦手な球種は要求しづらい。何より捕球が下手なキャッチャーは、投手の信頼を得られない。そうしたことを考えて、秋元コーチはキャッチングを最重視している。

 8日の練習中、秋元コーチが何やら指示を送った途端、森がバチーンと音を出して捕球し始めた。秋元コーチは、何を伝えたのだろうか。

「キャッチングって、途中からは想像の世界なんです。ボールの軌道と回転で、『ここに来る』と予想する。まったくミットを見ないわけではないですよ。でもボールだけにギュッと視線が行っちゃうと、バッターやランナーの動きがパーッと全部ほどけちゃう。いろいろ見ながら、パンと捕れなければいけない。そういうすべてを意識させて、練習させるようにしました」

 プロのピアニストが美しい旋律を奏でる際、鍵盤に目を向けることはほとんどない。優秀なシステムエンジニアはキーボードをまったく見ずに、精密機械のようにプログラムをタイプしていく。彼らと同じような感覚で、一流の捕手はボールを捕るのだ。
 秋元コーチが続ける。
「1軍のレギュラークラスは、無意識でキャッチングしています。森は意識しないと、まだできない。意識してやっているうちは、自分の本当の技ではありません。試合の切羽詰まった状況、メンタルで出せるのが、本当の技術。それを習得するには、この練習を1週間、1カ月、1年やったからできるようになるとか、そんな問題ではありません。キャッチャーをやめるまで続いていく」

リードを突き詰めなくても抑えられた高校時代

 無意識でキャッチングできることに加え、一流の捕手に不可欠な要素がもうひとつある。リード面だ。

 よく、「プロとアマチュアのリードは違う」と言われる。両者の違いについて、秋元コーチが説明する。
「アマチュアは基本、プロみたいに同じ相手と何回も戦いません。その場限りだから、どちらかと言うと自分たち主体でいける。でもプロのバッターは過去の対戦を踏まえて、配球を読んでくる。失敗しても次がある世界です。相手もヤマを張って、博打(ばくち)を打ってくるようなこともある。そういったことを意識しながら、バッターとの駆け引きも必要になる。そこが森にとって、まだ難しいところですね」

 大阪桐蔭高時代、森がボールを受けてきたのは藤浪晋太郎(現・阪神)ら高校トップクラスの投手だ。森は当時について、「高校時代はそこまでリードについて考えていなかった」と振り返る。高卒1年目からプロの打者をねじ伏せられる藤浪のボールがあれば、配球を深く突き詰めなくても抑えられていた。

 打撃ではすでに高度な技を身につけているものの、マスクをかぶった森はプロ1年生だ。無意識で捕球し、深く突き詰めて配球を組み立てられるようになるまで、それなりの時間が必要になる。潮崎2軍監督は、今季はファームでみっちり鍛え上げるつもりだ。

「もし今季1軍に上がることがあったとしても、ベンチが多くなると思います。それより1年かけて2軍でしっかりした形を身につけて、来年にレギュラー争い、もしくはレギュラーとしていけるような指導をしていくつもりです」

確かな才能を宿す森の将来性

 あらためて言うまでもないが、捕手は専門性の高いポジションだ。森はプロに入り、その奥深さが身に染みている。

「キャッチャーは考えることも多いですし、他のポジションとは違ったしんどさがあります。正直、大変な部分もあるんですけど、それも含めてやっていなかいといけない」

 無心で打てる打撃を誇る一方、捕手としてはまだまだ学んでいる段階だ。それでも身長170センチの森には、確かな才能が宿っていると秋元コーチが言う。

「ゲームの中の動きに、瞬発力がありますよね。例えば、盗塁の時のスローイング。走っても遅くないですし。それがちょっとしたバントの処理にも出ている。小回りがきくし、小柄なキャッチャーの良さを持っています。でも、まずは引き出しの数を増やしてやることが先。まだ、そんな段階です。ホントに『良いキャッチャーだな』って言われるようになるには、どんなに良い選手でも3年、5年はかかりますから」

 森が捕手として1軍のひのき舞台に上がるのは、もう少し先になるだろう。森自身、「もっとうまくなりたいという気持ちしかないので、どれくらいに上がりたいというのはまだないです」と話している。
 自身に寄せられた期待を受け止め、西武の大きな柱になるべく今は、地道に練習を重ねる毎日だ。その先にある、大きな目標を見据えて――。

「一番求めているのは、守って打てる選手です。キャッチャーもしっかり守れるようになって、チームのクリーンアップを打てる選手になれれば、一番良いと思います」

 現状では、松井や藤浪の立つ1軍の舞台は遠い場所にある。しかし打撃同様、キャッチングも“無”の境地に達したとき、森は打てて守れる捕手として、ライオンズの正捕手争いの中心にいるはずだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント