足りないものが多すぎたブラジル代表 惨敗がもたらした大きな痛みと問題提起
“セレソンの太陽”ネイマールの存在価値
最後の2試合を2連敗、10失点で幕を閉じたセレソンのW杯。ネイマールの代役など、足りないものが多すぎた 【写真:ロイター/アフロ】
昨年のコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)の成功にしがみついて、チームをもっと成長させなければワールドカップ(W杯)には通用しなかったのに、止まったままになってしまった。さらに、合宿中の戦術練習の不足、それに伴う戦術パターンの少なさ。ゴールゲッターの不在、そして、ネイマールしか頼れる選手がいなかった。
コンフェデ杯ではネイマールだけに頼る戦術でもなんとか通用した。しかし、W杯では他国はもっとレベルを上げていた。優勝までとてもたどり着けない材料はそろっていた。一方、勝ち進むのに必要な材料はネイマールだけだった。
監督は常々「ネイマールに依存しているわけじゃない。チームはネイマールのためにプレーし、ネイマールもチームのためにプレーする」と念を押していたが、チームは間違いなくネイマール頼みだった。実際、ネイマールはW杯前、セレソン(ブラジル代表の愛称)で1試合平均1.5ゴールをマークしてきた。ネイマールがゴールを決める試合には勝てた。
ネイマールはセレソンにとって太陽のような存在だった。バルセロナのチームメートでもあるダニエウ・アウベスは「ネイマールはブラジルにとって唯一無二の選手。ネイマールを最高の形で生かさないといけない」と言っていたが、太陽を失ったチームは死んでしまう。まさに、そんなことがW杯準決勝のドイツ戦で起きてしまった。
メンタルの弱い“泣き虫チーム”
W杯では感情的になる場面が多く、チアゴ・シウバ(右)らの泣いているシーンが幾度となく見られた 【写真:Action Images/アフロ】
選手たちは普段、明るく朗らかでジョークを言い合う元気な若者だ。チアゴ・シウバは「プレッシャーがあるのは当たり前。それが嫌ならサッカー選手をやめるしかない」と言い、ネイマールは「ホームゲームということでプレッシャーは大きいことは分かっているけど、今までだってどこでやってもプレッシャーはあった。いいプレッシャーだから楽しもうと思っている。これまでいろいろな大会のファイナルを経験して、その中で勝ってきた。最高だったよ。ブラジル人プレーヤーは、こういうのを自然に受け止めている。僕たちは大丈夫だ」と明るく話していた。
しかし、W杯ではその明るさよりも感情的になる場面が多く、よく泣いた。
開幕戦のクロアチア戦ではチアゴ・シウバとジュリオ・セーザルが国歌斉唱で感極まって涙を流し、メキシコ戦の国歌斉唱ではネイマールも泣き出した。決定的だったのはラウンド16、チリとの死闘の後だ。チリ戦はハイプレッシャーでスペースを与えない、厳しい試合になった。延長戦でも勝負はつかずPK戦にもつれ込んだのだが、選手たちは負けたら終わりという緊張の場面で、精神的にリミットまで来ていた。自国開催のとてつもない重圧がここで初めて現実になったのだ。
PKを蹴る自信がなかったチアゴ・シウバは言った。
「フェリッポンに自分を一番最後にして欲しいと頼んだ」
そうして、PKに挑む選手たちが肩を組み、一致団結しているところから離れて1人だけ祈りの世界に入った。
それでも、セレソンはぎりぎりのところで勝利を手に入れることができた。ジュリオ・セーザルが奇跡のセーブを2回決め、チリの5番手(ゴンサロ・ハラ)が外してくれたおかげでブラジルに勝利は転がり込んだ。その瞬間、ネイマールは地面に突っ伏して泣いて喜んだ。チアゴ・シウバはフェリッポンに抱かれ、子どものように泣いた。そんな光景は彼らがいかにセレソンが敗退、すなわち国民を失望させるということに大きな恐怖を感じているかを表していた。
ここからセレソンは泣き虫と呼ばれ、メンタルの弱さを指摘されていく。
乏しい試合内容
チアゴ・シウバとダビド・ルイスのディフェンス、ネイマールのタレント性、得点力がチームを支えていることは明らかだった。他の選手のパフォーマンスの悪さも目立つ。右サイドバックのダニエウ・アウベス、ボランチのパウリーニョはコンフェデ杯と比べて明らかに動きが悪く、オスカルはクロアチア戦のみ機能したがその後はさっぱり。一番ひどかったのはゴールゲッターであるはずのフレッジだ。フレッジからゴールが生まれない(今大会は1ゴール)。フレッジに対する不信感は予想通りだった。
大量失点を喫した“魔の6分”
スコラーリ監督の取ったフォーメーションは予想された3ボランチではなく、ネイマールの代わりにベルナール、チアゴ・シウバの代わりにダンテを入れるだけで、戦術はこれまでと全く変わりなし。コンパクトさがなく、最終ラインとトップには無意味なスペースが広がり、中盤はスカスカというチームが、攻撃力、守備力、組織力、連係プレー、個人技、メンタルとすべてにおいて大きく上回るドイツと真っ向から戦ってしまった。当然、ドイツの思うつぼだった。
CKで先制されたのは想定内としても、そこから守備がガタガタになる。“魔の6分”と呼ばれるようになった短時間で、まさかの4失点を喫した。
選手たちは完全にアパゴン(大停電)になっていた。頭が真っ白になってしまって何をしているのか分からないショック状態になっていた。自宅でテレビを見なければいけなかったネイマールは、最後まで見ることができなかったという。