歴史的大敗を王国はどう受け止めたのか? 指摘される連盟の体制や育成方法の改善

沢田啓明

敗退後、国内は平静を保つ

準決勝でドイツに惨敗してから数日、ブラジルの人たちはこの歴史的大敗どう受け止めたのか 【写真:ロイター/アフロ】

 いつのワールドカップ(W杯)でも、ブラジル代表が目指すのは世界の頂点だ。自国開催の大会であれば、なおさら。優勝以外の結果は、たとえ延長、PK戦の末の敗退であろうと、“惨敗”とみなされるはずだった。

 それが、7点も奪われて文字通りの惨敗となれば……人々は、驚き、悲しみ、失望し、そして深い苦痛を抱えて沈み込んだ。

 準決勝のドイツ戦終了後、試合地ベロオリゾンテの中心部は拍子抜けするほど平静だった。一部で心配された暴動はおろか、けんかすらほとんど見かけない。市民たちは、怒りの感情を胸の深い部分に秘め、少なくとも表向きは、「ミネイロンの悲劇」を淡々と受け止めているようだった。

 サンパウロでは、試合後、一部の地域でバスや乗用車が焼かれ、商店が略奪の被害を被った。しかし地元警察は、「一部の暴徒が犯罪行為に走ったのであって、セレソン(ブラジル代表の愛称)の敗退と直接の関係はない」という見方を示した。リオデジャネイロのファンゾーンでは数件の盗難事件が発生したが、これも試合と特に関係なかったようだ。

 W杯開幕前に頻発し大会期間中にも発生することが懸念されていたW杯反対デモや交通機関などのストライキは、セレソンが勝ち進むにつれ、すっかり鳴りを潜めていた。セレソンが敗退したことで再燃するのではないか、という見方もあったが、現地時間10日現在、デモもストライキもほとんど起きていない。

 ブラジル人たちは、日頃の陽気さや騒々しさはどこへやら、すっかりしょげ返っている。デモやストライキを行なう元気すらなくしているようだ。

ドイツがアルゼンチンを倒すことを望む

 また、準決勝で苦杯をなめさせられたドイツに対して特に怒っているわけではない。むしろその反対で、ドイツの美しいパスワークをベースとする攻撃的スタイルは「かつてのセレソンのようだ」と称賛されている。また、準決勝の試合後、ドイツ選手が敗れたブラジル選手を気遣う発言をしていること、北東部バイア州のキャンプ地で市民と交流していることなどが好意的に報じられている。

 一方、ブラジルの伝統的なライバルであり、大敗を喫して落胆するブラジル人の傷口に塩を塗り込むような挑発行為を繰り返すアルゼンチン人サポーターに対しては、反感が強まっている。

 決勝がドイツ対アルゼンチンのカードになって、ブラジル人の最大の望みは、ドイツがアルゼンチンを倒してくれること。それも、大差であればもっといい。仮にアルゼンチンが通算3度目の優勝を達成し、決勝の試合地リオデジャネイロの中心部でアルゼンチン人サポーターが派手に騒ぎ、市民を挑発した場合、双方が激しく衝突して死傷事件が起こるかもしれない。

日増しに増幅しつつある監督、選手への怒り

 ともあれ、一般的には脱力感が充満している状況で、エコノミストは消費者の購買意欲が減退し、経済がさらに減速すると予想している。また、政治評論家の多くは、セレソンが敗退したことで現状を否定する意識が強まり、10月に行なわれる大統領選挙で再選を目指す現職のジウマ・ルセフにとって逆風が吹く可能性を指摘している。

 ブラジル人は、「サッカー王国」の住民としてのプライドをひどく傷つけられた。

 ルイス・フェリペ・スコラーリ監督と期待を裏切った選手たち(とりわけ、不振を極めたFWのフレッジ、フッキら)に対する怒りは、日増しに増幅しつつある。今後、それが少しずつ顕在化してゆくのは間違いないだろう。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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