スター不在で一致団結したレ・ブルー チームで戦う賭けに勝ったデシャンの試み

木村かや子

吉と出たデシャンの采配

采配で流れを変えたデシャン監督(右)。ここまでは一致団結して戦うチーム作りもうまくいっているようだ 【写真:ロイター/アフロ】

 結果論ではあるが、デシャンの采配も吉をもたらした。これに先立つ2試合で、ポグバには「自分がいいところを見せたい」とする傾向が見られ、自分で行き過ぎてチャンスをつぶす場面も少なくなかった。そのため、フランスメディアからはポグバではなく、より安定性のあるムサ・シソコの先発起用を推す声が多かった。しかしデシャンは、シソコより足元の技術に長け、意外性とひらめきをもたらし得るポグバの起用を決断。相手のレベルが上がったこの段階には、未完成とはいえ大器の才を持ち、ひとつのシュートで流れを変えうる男がひとりは必要だと考えての選択に違いない。

 またおそらくこの試合前、監督はポグバに、不必要に個人技に走らずチームプレーを重視するよう、注意も促したのだろう。そしてこの試合でのポグバは、多少のミスはあったものの、身勝手なプレーは控え、その突破力と『重要な瞬間に適切な場所にいる能力』で違いを生み出して、監督の期待に応えてみせた。

 試合後、ポグバは「母国のために、こうも大きな大会でこうも重要なゴールを決めることができるなんて、この感慨は本当に言葉では言い表すことができない。あのゴールがチームを精神的に解放した。苦しい展開で、もっといいプレーができたはずだったが、皆で最後まで団結して戦い抜いた。そのことを誇りに思う」と感極まった様子で話している。

 また、グリーズマン投入のタイミングも適切だった。フランスの4−3−3において前線の3枚には、「バルブエナ−ベンゼマ−グリーズマン」と、「バルブエナ−ジルー−ベンゼマ」の2パターンがある。後者の場合、マークすべき点取り屋が2人になる上、ジルーに攻撃での高さと相手のセットプレーでのディフェンス力を望めるので、うまく機能しさえすればよりアグレッシブな布陣となる。

 しかし、このナイジェリア戦では、ジルー、ベンゼマともに調子は今ひとつ。対スイス戦では、先制点を挙げたばかりか、相手のCKを自らクリアしたのちにピッチを疾走し、ゴール前での測ったようなパスで3点目のお膳立てをしたジルーだったが、この日はパスのタイミングや選択で判断ミスが少なくなく、動きにもキレがなかった。

 より俊敏で小回りが利き、パスセンスのあるグリーズマンが入ってから、フランスが攻勢に回り、彼のおかげで2点目も生まれたのだから、交代は当たりと言ってよいだろう。反面、小柄なグリーズマンが力負けしてボールを奪われる場面も少なくなかったことから見て、それでなくとも90分好調さを保てないグリーズマンが先発していたら、それはそれで難が出ていたはずだ。概して1対1で負けがちだったフランスだが、前半に体を張って対抗できるジルーがいたことには、それなりの利点もあったように思える。

浮かれるにはまだ早い

 2010年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会での失態(グループリーグ最下位で敗退)のあとゆえに、フランスはこの準々決勝進出を意味あるルネッサンスとして受け止めた。バルブエナは試合後、「この結束したチームでもっと先まで突き進みたい。この準々決勝進出を、そしてフランス人であることを誇りに思う」と話した。スターであふれていなくとも、チームとして一致団結して全力を尽くす集団を作りたいとしたデシャンの試みは、ここまでのところうまくいっている。

 とはいえ、喜ぶには時期尚早であるということは、監督が一番よく知っている。この進撃の重要な立役者のひとりであるデシャン監督は、早くも優勝の可能性について語りたがるメディアを即座に制し、次のように話した。

「厳しい試合だったが、最後に道が開けた。W杯では、すべての試合が厳しいものだがね。ここまでのチームの戦いぶりを誇りに思うが、ここで有頂天になっている場合ではない。われわれは準々決勝に進出しただけで、5日のうちに次の試合がある。そしてドイツは大会の優勝候補の一角だ。今夜はこの勝利の喜びを味わうが、明日からわれわれが考えるのは、次の試合のことのみだ」

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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