160キロを生み出す大谷翔平の強さとは?=小宮山悟が解説
繰り返す足のアクシデントに「不満」
ローテ投手として160〜70イニングを投げられるか注目している小宮山氏。エースとして階段を上っている大谷に投球回数の重要性を説く 【写真は共同】
限界を超えたという可能性はありますね。さらに言うと、「足をつる」というアクションは決してプラスではないですよね。何度も何度も同じことを繰り返すというのはあってはならないことだと思いますので、そこはいかに克服するかだと思います。
ピッチャーは速い球を投げるのが仕事ではないです。アウトをいかに効率的に取るかが重要なので、最終的にアウトを取るというゴールに向けて、どう自分のピッチングをつくるのかが大事になります。大きな心配をしなくてもいいのかなと思っていますが、本来であればあってはいけないことなので、その辺は不満ですね。
――日本ハムの現状を見ると、大谷選手は今後、ローテーションの核になっていくことが考えられますが、夏場を迎えるにあたっての課題は何でしょうか?
最大の敵はやはり疲労です。10試合、100イニング近く投げてくると、1度疲れがドッと出てくるんですよね。その時期に、バッターとしても試合に出ないといけないのですから、肉体的にも精神的にもタフな状況です。ただ、この状況は経験した人でないと分からないので、現状の大谷くんの疲労がどれほどのものかは、誰も把握できていないと思いますよ。これは本人にしか分からない部分ですから、日本ハムのトレーナーでさえもよく把握できていないのではないでしょうか。だから、余計人一倍気を使って体調管理、コンディショニングをしていかないといけないと思います。
――よくエース級の投手になると、試合の間に抜きどころを設けるなど言われますが、大谷選手は常に全力投球のように見受けられます。今後はそのような技術も必要になってくると思うのですが。
もちろんです。しかし、それは時間が解決してくれる。実際に自分が投げていて、ひょんな事から身につくものだと私は思います。大谷くんは今、必死になってやっている。これは賞賛に値します。その中から、いかに本人が自分にとってプラスになる、チームにとってもプラスになるものを見つけられるかどうかです。
小宮山氏が注目するのはイニング数
勝ち星に関しては、味方打線の援護やチームの戦い方などの影響が大きいので、何とも言えないです。ただ、彼の持っている能力からすれば、「15勝ぐらいは(達成して)当然だろう」と言われてもしょうがないですね。
私としては、彼がローテーションのピッチャーとして、年間通じて穴を空けずに30試合程度、登板することができるのならば、年間160〜70イニング投げることができるのか見ていきたいです。通常、200イニングがピッチャーとしての目標となりますが、野手として試合に出ている疲労も考慮しなければいけないので、160〜70イニングでもいいのかなと思っています。
――小宮山さんはイニング数で見ていくべきと。
一番正しい物差しだと思っています。抑え続けないと長いイニングは投げられないわけですから。ひとつでも多くのアウトを取ることがローテーションピッチャー、エースと呼ばれるピッチャーの仕事だと思います。ですので、投球回数に注目していかなければならないと感じますね。
――2012年秋のドラフトの際、小宮山さんは160キロを出した大谷選手は「数字の被害者だ」とおっしゃっていましたが、現在は違いますか?
プロに入ったらいいです。アマチュアの場合、1度でもスピードを記録すると、「160キロ右腕」の枕詞が付いて回ります。ただ、これは場合によっては本来の姿を見失う危険性をはらんでいるわけです。なので、ドラフトの時は、大谷くんが数字に惑わせることがないようにとの思いで「被害者だ」と表現をしました。
160キロがまれでなく、コンスタントに出るのですから、本人はすでに「160キロ」ということは気にしてないんじゃないでしょうか。
アウトを取るためにどうボールを投げるのかということと、速いボールを投げるということは対極に位置していると思っています。アウトを取るためにスピードが上がることはありますが、速さを求めて投げることは投手の成長に絶対にプラスになりません。大谷くんが速さを求めるような投球、練習をしていないことを願っています。
(取材・構成:森隆史/スポーツナビ)
小宮山悟/Satoru Komiyama
現役時代はロッテや米大リーグ・メッツなど、日米球界で活躍した野球解説者の小宮山悟氏 【スポーツナビ】