見えない「自分たちのサッカー」の輪郭=数字で振り返るザックジャパンの挑戦

清水英斗

グループリーグ敗退となった日本代表。3試合の数値から、ザックジャパンの戦いを振り返ってみる 【写真:ロイター/アフロ】

 日本代表のブラジルワールドカップ(W杯)は、1分け2敗でグループリーグ敗退。優勝を目指したサムライ・ブルーの挑戦は、はかなく、悔しい結果で幕を閉じた。

 思い返せば、レシフェで行われた初戦のコートジボワール戦。本田圭佑が目の覚めるようなシュートを見舞って日本の先制ゴールを挙げたとき、著者はそこが記者席であることを忘れて、叫び、拳を上げた。もう、遠い昔のことのようだ。

 そしてコロンビア戦で岡崎慎司がヘディングシュートを決め、同点に追いついたときも、やはり叫び、両隣の記者とハイタッチを交わした。

 敗退のショックは今でも大きく、感傷に浸ったまま、抜け出せないでいることは否定できない。しかし、この3試合から浮かび上がる課題を抽出し、このチャレンジを総括することは粛々と行わなければならない。本稿は、この3試合を世界中で誰よりも冷静に見つめていたであろう“数字”の助けを借りて、ザックジャパンの挑戦を振り返りたい。

欠如していたペナルティーエリア侵入の回数

3試合で2得点しか奪えなかった日本だが、攻撃の回数が少なかったと言うわけではない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 試合を見ているときから気になっていたが、『FIFA.com』に掲載されたスタッツを見て、よりハッキリと分かったことがある。今回の日本代表の問題点の1つは、「相手のペナルティーエリアに侵入する回数」が、あまりにも少なかったことだ。

 日本が攻撃をサボっていたわけではない。むしろ、3試合で141回を記録した攻撃回数は、グループリーグ終了時点の32カ国の集計において、アルゼンチンの170回、フランスの151回、ガーナの142回に次ぐ、4位の攻撃回数を記録している。決して、日本の手数が足りなかったわけではない。

 問題はその内容だ。全チーム中9位となる日本の46本のシュートのうち、枠内シュートは28本。そのシュートを打った位置を見ると、ペナルティーエリア外が21本、ペナルティーエリア内は7本に留まった。この7本というエリア内の日本のシュート数を下回るチームは、イタリア、ホンジュラス、イラン、韓国など、グループリーグで敗退した国ばかり。逆に決勝ラウンド進出を決めた国のエリア内シュートは、フランスの26回を筆頭に、ブラジルの19回、オランダの19回、そして総シュート数が36回と日本を大きく下回るコロンビアでさえ、エリア内シュートは14回と日本の倍の数を記録している。
 日本は総シュート数のうち、遠めから打つミドルシュートが目立ち、ペナルティーエリアへ侵入する回数が少なかった。それはサイド攻撃を重視したことだけが問題ではない。攻撃回数141回のうち、中央から攻めた回数は34回。これは中央の攻撃回数としては、1位アルゼンチンの35回に次ぐ、2位の数字だ。

 サイドを使って攻撃するのは、リスクマネージメントの観点からも、ごくごく普通の発想であり、日本はむしろ中央からの攻撃回数が相対的に多いチームだった。しかし、シュートを打ち急ぎ、その中央から相手最終ラインの裏を取る回数が少なかったことが、7回という貧弱なペナルティーエリアの攻略回数を記録してしまったのではないか。

 日本がミドルシュートを得意とするチームなら、それでも構わないが、断じてそんなことはない。私見だが、ゴールに近づいてからの日本には、たとえばコロンビアのハメス・ロドリゲスに見られるようなプレーの遊び心が、まったく感じられなかった。

 日本代表の試合を見ながら、「そこシュート打てよ!」と怒る人がいるかもしれない。しかし、果たしてそれは日本代表のプレーモデルに合っているのだろうか? 他国が同じ位置からシュートを決めているからといって、同じことを日本の選手に求めるのは正しいのだろうか? 無駄打ちをするくらいなら、もう一度攻撃をやり直して、ポゼッション率を高めるほうが日本に合っているのではないか?

 たった5分ほどにすぎないパワープレーの話が、国中に行きわたるほどの話題になってしまう昨今だが、個人的には、むしろ普段のシュートに至る過程に重大な問題が潜んでいると感じた。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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