「結果重視」のカペッロ采配への疑念 ロシア国内でささやかれるFWの不足

篠崎直也

本番は自国開催の18年W杯

18年のロシア大会を目標としているため、マクシム・カヌンニコフ(手前)ら4年後に主力となる選手たちを積極的に使っている 【写真:ロイター/アフロ】

 ロシアがこれほどまでに結果にこだわるのは理由がある。18年には自国開催のW杯が控えているのである。自国のアピールと国威発揚の手段としてスポーツを強化してきたソ連時代は五輪こそが最も重要な大会で、メダル獲得数を最重要視してきた(その頃の名残か、サッカー界でも順位に対して「金メダル、銀メダル」といった表現を現在でもよく用いている)。

 ソ連崩壊後の90年代、政治は腐敗し、経済も低迷、人々のモラルまでも崩壊し、完全に自信を失ったロシアの人々にとって、スポーツは「強いロシア」を実感するための大きなよりどころとなった。ウラジーミル・プーチン大統領の登場以降、急速な発展を遂げたロシアは再びそのチャンスを得る。過去最高のメダル数を獲得したソチ冬季五輪に続き、国民はW杯での上位進出を純粋に期待しているのである。

 連盟は今年の年明け早々にカペッロとの契約を4年後まで延長。その際の記者会見でイタリア人指揮官が発した「私には大きな計画がある」という宣言の裏には、「本番はあくまでロシア大会」という意識もある。マクシム・カヌンニコフやパベル・モギレベツといった代表経験がほとんどない若手をメンバーに加えたのも、コンディションの良さに加えて、将来を見据えてのことだろう。

カペッロに残された道はアルジェリア戦の勝利のみ

 とはいえ、連盟とカペッロの蜜月が順調に続くという保証はない。今大会はグループリーグ2戦を終えて1分1敗。突破の可能性はまだ残されているものの、現地紙『スポルト・エクスプレス』は「ギリシャのような(守備的な)ロシアはもうたくさんだ!」と厳しい見出しを付け、現地各メディアも一斉に監督の采配に疑問を投げかけている。

 実は大会前から1人の選手の招集をめぐって火種はあった。カペッロは今季ロシアリーグの得点ランク2位で、メンバー入りを望む声が多かった大型FWアルチョム・ジュバ(FCロストフ)をブラジルには連れて行かない決断を下した。
 FWのタレント不足がささやかれる中で、今季ブレイクした点取り屋をあえて呼ばなかったことに対して、専門家たちもこぞって異を唱えていたのである。

 スポーツ大臣のビタリー・ムトコは「チームが勝てばカペッロは王様となる。負ければジュバを呼ばなかったことが原因だ。サッカーとはそういうものだ」と発言。「グループステージ突破はノルマ」と目標を掲げていただけに、第3戦の結果次第によっては、今後の去就にも影響がおよびかねない。

 王様となるために、名指揮官に残された道はもはや次戦アルジェリアとの試合(6月27日)での勝利しかない。

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著者プロフィール

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学でロシア語やロシア芸術論を教えている。4年間の留学生活を過ごしたサンクトペテルブルクは第2の故郷。その間、ゼニトのタイトル獲得をことごとく目の当たりにする幸運に恵まれ、辺境のサッカーの虜に。以降、ロシア、ウクライナのサッカーを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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