錦織圭、真価が問われるウィンブルドン 注目は初戦 芝での課題が全て試される

内田暁

四大大会の中でもっとも苦戦

ウィンブルドンで過去最高の4回戦進出以上の結果を目指す錦織 【原田亮太】

 白を基調としたウェア着用を義務づけるテニスのウィンブルドン(イギリス・ロンドン、23日開幕)の伝統は有名だが、今年はその厳格さに、一層の磨きが掛かった。シャツの袖口などに入れられる色帯の幅は、きっちり1センチ未満。それを0.1ミリでもオーバーすれば、丁重かつ厳粛に、コートに立つことをお断りされる。
 理屈ではない。整合性でもない。商業主義や合理性に背を向けた、良い意味での偏屈さにこそ、“テニスの聖地”の神聖が宿るのだろう。

 平成生まれで13歳から米国育ちの錦織圭(日清食品)が、果たしてそのような聖地の格式に、いかほどの畏敬の念を抱いているかは分からない。ただ、4つあるグランドスラムのうち、錦織が唯一、4回戦以上に進めていないのがウィンブルドン。
「ここで活躍したいという想いは、今のところ、どのグランドスラムよりもある」との言葉に、この大会に懸ける情熱が色濃く映し出されている。
 
 先述したように、錦織のウィンブルドンでのこれまでの最高成績は、昨年と一昨年の3回戦進出。他の大会ではベスト8や4回戦が定位置になっているだけに、本人も「これまで芝ではあまり良い成績を残していないので、今年は結果を出したい。昨年以上には、もちろん行きたいです」と語気を強めた。

“芝”で錦織が苦しめられた3つの要因

 他に比べウィンブルドンで結果が出ていない理由には、偶発的な要因も多いだろう。初戦でラファエル・ナダル(スペイン)と当たるドローの不運もあれば、ケガやトップ10のプレッシャーに苦しめられた一昨年や昨年の例もある。

 同時に、ウィンブルドンの“芝”というコートの特性が、彼の長所を殺していた側面も否めない。
 錦織本人は、芝の難しさの最大の要因として「フットワーク」を挙げている。芝は滑りやすいために、走って止まり、打って再び走り出すその一歩目への初動が、遅れやすい。錦織の最大の持ち味である俊敏さと機動力が失われ、相手に一発でウイナーを奪われる場面も増えてしまう。

 また、芝ではボールが滑るように低く弾むため、「常に重心を低く保つことが大切」と錦織は言う。頭では分かっていても、試合がかさみ疲労がたまれば、どうしても試合が進むにつれ腰が浮いてきてしまう。展開が早いため試合時間こそ短いが、クレーとはまた異なる体力が求められるのが、芝の難しさであろう。

 さらにサーブの優位性の高さも、錦織を苦しめてきた要因だ。球足の速い芝では、総じてサーブの威力が増す。サービスゲームを落としても、それ以上にブレークすることで勝利を手にしてきた錦織には、やはり不利なコートだと言えるだろう。
 その錦織が今季は、前哨戦のゲリー・ウェバー・オープンでベスト4進出の好成績を収めている。準決勝でロジャー・フェデラー(スイス)に破れたものの、試合を通じ2本しか相手にブレークポイントを与えず、第2セットはタイブレークにまで持ち込んだ善戦である。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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