W杯ベスト4へ 自信みなぎるベルギー 育成強化で作り上げた「楽しい」サッカー

中田徹

トレセンによって一貫した“代表チーム”を作る

ダークホース的存在に上げられているベルギーは、2000年代から始めた育成の成果が結実している 【写真:ロイター/アフロ】

 もちろんオランダの育成をまねするだけではなく、ベルギーに合わせてアレンジを加えている。例えばオランダはマンツーマンでの守備を中心に育成しているが、ベルギーではマンツーマンだと対人についていけばいいと判断しがちになり、考えることがおろそかになるため、ゾーンディフェンスを推奨している。

 フランスからはエリートサッカー選手養成所『クレールフォンテーヌ』を参考に、地域トレーニングセンターを8カ所作った。トレセンは“チーム”ではないから、徹底してドリブル、パス、シュートなどの個人のための練習に時間を割くことができる。
「オランダ人は対人のない、ドリル的な練習が嫌いでやりませんが、ベルギーはやりますよ」と協会関係者が語ってくれたことがある。

 地域トレセンの頂点に立つのが各年代代表チームだ。各年代、4−3−3でフォーメーションを統一し、最終ラインからしっかりボールをつなぐ、ゾーンサッカーが徹底されている。

 例えばアザールやオリギのように、ユース世代でフランスのリールへ移籍した選手でも、ベルギーの年代代表チームでプレーすることによって、ベルギーの育成メソッドを体得することができるようになっている。

地域の対立もサッカーでは先に解決

 特筆されるのは対立の激しいフラマン地域(オランダ語圏)とワロン地域(フランス語圏)のサッカーコンセプトを協会が一つにまとめたこと。政治や経済、日々の生活の中において、2つの地域の激しい対立が解消されないベルギーだが、「サッカーは先に対立問題を解決してしまった」と言われている。

 ベルギーサッカー協会が、自国のサッカーの鏡として期待しているのが代表チームだ。彼らは「ベルギー代表はオーガニゼーション(組織)がよく、しっかり前線からプレスをかけ、個の力も強い」と胸を張る。

 しかし、これは筆者個人の感想だが、前線からプレッシングをかけても、4バックが後ろに残りがちなので、ベルギー代表は全体がコンパクトにならず、プレスをくぐられて相手にボールを運ばれることが多い。ユース世代で進めているベルギーらしいサッカーが、A代表チームでも表現されるようになるには、もう少し時間が必要なのではないか。

ベスト4に入った86年より潜在能力は高い

 それでも今のベルギー代表は欧州の舞台でもまれている選手の総合体なだけに、ものすごく高いポテンシャルを備えている。昨年12月、ベルギーがアルジェリア、ロシア、韓国と同じH組に入ったとき、「このグループなら決勝トーナメント進出は絶対果たさないといけない」とビルモッツ監督は語った。

 しかし、ベルギー国民が夢見るのはもっと上。1986年にメキシコW杯でベスト4に入った時より、今のベルギー代表は選手のポテンシャルが高いと彼らは思っている。
 その声にあおられているのか、それとも彼ら自身の中に手応えがあるのか、アルジェリア戦前日の16日、「僕たちは少なくともそこ(86年のベスト4)まで行きたい」と語った。

 ただ、今のベルギー代表はとても若いチーム。36歳のDFダニエル・バン・ブイテンの次に高齢なのは28歳のDFトーマス・ベルメーレンだ。ベルギーのピークは2年後のユーロ2016(フランス)にくるという声も多い。かつてベルギー代表の名選手としてならしたマルク・デフリースは「グループリーグ突破は問題ないだろう。しかし、決勝トーナメント1回戦の相手はドイツかポルトガル。ベルギーにとっては難しいチーム。ベスト8進出が目標になるだろう」と見ている。

 だが、ベルギー代表にとって、ブラジルW杯の本当のスタートはグループリーグが終わってから。とても12年ぶりのビッグイベント参加とは思えぬ自信が、今のベルギーにはみなぎっている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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