「楽しむこと」に貪欲な遠藤保仁の思考法 強靭な精神力はどう育まれたのか

デサント

一番成長したのはメンタル

プロ入りしてから「メンタルが一番成長した」と語る遠藤。その強靭な精神力はどう育まれたのか 【写真提供:デサント】

 プロ入り17年目を迎えたガンバ大阪の遠藤保仁が、デビュー時から最も成長したと実感しているのは、テクニックやプレーの精度ではなく内面だった。

「多くの経験をして、今ではいろいろなものにしっかり対応できるようになったと思います。技術や戦術はやればやるほど身につくものですが、メンタルが一番成長したかな。プロ1年目からある程度試合に出させてもらって、そのおかげでユースの代表、五輪の代表にも選ばれた。若い時にたくさんの試合に出られたことが大きいですね」

 遠藤はJ1だけで出場試合数449(5月27日時点)を誇る。これは、歴代6位の記録だ。さらにJ2で33試合、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で35試合、クラブワールドカップ(W杯)で3試合、Jリーグスーパーカップで4試合出場しており、すべて合わせると524試合にのぼる。代表戦と合計すると669試合(6月15日時点)。これは断トツでJリーグ史上最多であり、平均すると年間41試合を戦っている計算だ。1999年に行われたワールドユース選手権の予選と本大会、シドニー五輪の予選も含めれば、試合数はもっと増える。

 また、ACLでアジアを制し、クラブW杯準決勝ではマンチェスター・ユナイテッドと対戦するなど、試合数だけでなく経験値や密度でも群を抜く。日本代表としての不遇の時代を乗り越え、今や歴代のJリーガーの中でも前人未到の域に達している遠藤だからこそ、大舞台でも動じない、逆境にも屈しない強靭(きょうじん)な精神力を身につけることができたのだろう。

遠藤の思考に影響を与えている読書

遠藤の思考に影響を与えているのは読書だ。大企業の経営者から発想や人の動かし方などを学んでいる 【写真提供:デサント】

 もうひとつ、遠藤のメンタルを補強するものがある。それは書籍だ。遠藤は読書好きで、日本代表の遠征にも本を持参することで知られる。誰か特定の人のファンではなく、「いろいろな人の本を読むのが好き」というのが遠藤らしい。

 読書は遠藤の思考にどんな影響を与えているのだろうか?
「松下幸之助さんの本や、ユニクロの柳井(正)社長の本は何度も読み直しました。大企業のトップに立った人の考え方や発想はすごいなと思います。人を動かすという意味では同じような立場にいるので、いろいろな人がそれぞれのモチベーションの上げ方を持っているのを知ると面白いですね。サッカー選手も人それぞれ性格が違うので、接し方もすべてが同じようにはいかない。そのへんを頭に入れながら、一言、二言かけてあげるだけで違うとは思いますし、そういう部分で経験の多い選手が必要なのかなと思います」

 G大阪では主将を務め、日本代表では最年長のベテランだけに、求められる役割は若手の頃とは違ってくる。広い視野と冷静な判断力でチームの現状を把握し、目標に向かって正しい方向に進んでいくように気を配らなくてはいけない。遠藤は自ら率先してチームを引っ張るようなタイプではないだけに、年を重ねてリーダーとしての役割を担うようになった時、大企業のトップが記したさまざまなマネジメント術は、ピッチの内外で振る舞い方に対してヒントになっているのだろう。

 遠藤は「いろいろな人の本を読むと、こういう考え方もあるんだなとか、自分のためになりますよね」とも語っているが、読書における多様性への興味や寛容さ、フラットな姿勢はプレー面でも共通している。

「日本代表でのプレーで意識しているのは、新しく代表に入ってきた選手のプレーや癖を見抜けるかどうか。もちろん、サッカー観が似ている選手も全然違う選手もいますけど、サッカーは正解がひとつではないスポーツなので、多少のずれはあって当然です。全然違う感覚を持っている選手と話すのはすごく楽しいし、それがうまく融合すれば面白いですよね。プレーをしていてやりやすい、やりにくいはもちろんあるので最初は苦労しますけど、それも当たり前のこと。やりにくいままで終わることは避けるようにしています」

 影響力のある選手の言動は、チームの雰囲気を大きく左右する。自分と違う感覚を持つ選手との会話を「すごく楽しい」と受け入れ、異なる感性が交わる可能性を「面白い」と信じられる遠藤は、海外組が増え、個性派が顔をそろえる日本代表で不可欠の存在だ。

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