「楽しむこと」に貪欲な遠藤保仁の思考法 強靭な精神力はどう育まれたのか
大切にしているのはサッカーを楽しむこと
楽しむことに貪欲な遠藤が求めるのはW杯のような大舞台。3度目の出場となる今大会で輝きを放つことはできるか 【写真提供:デサント】
「一番大切にしているのは、サッカーを楽しみながらやること。自分が楽しんでサッカーをしていれば、見ている方々にも楽しんでもらえると思っています」
外野の声に惑わされず、ピッチに立つために最大限の努力をし、どんなタイプの選手とのプレーも前向きに捉える。遠藤の独自のスタイルは、どうすればよりサッカーを楽しめるかを追求した結果ということもできる。
そして「楽しむこと」に貪欲な遠藤が求めるのは、W杯のような大舞台だ。
「ブラジル、アルゼンチン、フランス、イングランドなど強豪国ともたくさん試合をしてきましたけど、強い相手や世界のトップレベルの選手との対戦はいつも楽しみですね。例えばW杯でも対戦するヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティ所属/コートジボワール代表)はスーパーな選手で、自分と比べてすべての面でレベルが高いと思いますが、そういう存在が良い刺激になります」
遠藤はどんな試合でも感情をあらわにすることがほとんどないが、きっと大一番であればあるほど、相手が強ければ強いほど、期待に胸を膨らませているのだろう。
「楽しむこと」は、サッカーだけでなく遠藤の人生観にも通じている。
「明日どうなるかも分からない。けがをするかもしれないし、予期せぬアクシデントが起きるかもしれない。だから1年後、2年後のことも考えていません。目標を実現するためにプランを立てて生きている人もいて、それはそれで素晴らしいことだと思います。人生プランの通りに進んでいくようにやるべきことをやるというのも面白いんじゃないかなと思います。でも、僕の性格上、そういう生き方は考えられないんですよね。先が見えている人生は面白くないから」
振り返れば、遠藤のサッカー人生はつねに予測不可能だった。高校卒業後に加入した横浜フリューゲルスはその年に消滅し、移籍先の京都パープルサンガはJ2に降格した。G大阪ではJリーグとACLを制し、アジア年間最優秀選手にも輝いたが、昨シーズンはJ2でのプレーとなった。代表でも、遠藤が史上最多出場するような選手になると予想した人はいないだろう。気づけば、代表とクラブを合わせて計669試合にも出場していた。
もしかしたら、本人がこの展開に一番驚いているのかもしれない。先のことを考えても予想通りにはならない。独力ではどうにもならないこともある。16年間のプロ生活でこれらを強く実感したからこそ、目の前の一瞬一瞬を大切に過ごすことに集中しているのだ。
遠藤が歩んできた道のりは、まだ先へと続いている。これから進むその道の途中で何が待ち受けていようと、遠藤は気負うことなく立ち向かうのだろう。未知との遭遇に胸を躍らせながら。
(ライター:川内イオ)