内田篤人「オレ、まだ運があるかも」 ケガの瞬間からリハビリの日々までを語る

二本柳陵介

2月に負ったケガからリハビリの日々までを語ってくれた内田。メンバー発表までどんな生活を送っていたのか 【Getty Images】

 2014年2月9日、シャルケ04対ハノーファー96戦。2−0とリードした後半43分の場面だった。ボールを運んだ内田篤人がセンターサークル付近で倒れ、指をクルクルまわして交代をアピール。右太もも肉離れと腱の損傷を負った。全治3カ月。ブラジルワールドカップ(W杯)に間に合うかどうか、微妙な時期での大ケガだった。

 筆者個人としては、自分勝手を承知で書くと、このケガに頭を抱えた。昨年末から内田の公式写真集の制作を進めていたからだ。W杯の前に、南アフリカからの4年間の戦いの軌跡をまとめるというコンセプトがあったので、ブラジルW杯に挑む23人に選ばれてほしかった。

 南アフリカW杯の予選では、日本代表の6番を背負い主力として戦い抜きながらも、本番では直前の戦術変更でサブに甘んじた。1分もW杯という舞台を踏みしめることなく、内田は南アフリカを去った。

 2010年6月29日、日本代表が南アフリカW杯でパラグアイ戦に負けた日。この日から、新たな戦いの日々が始まった。写真集を出せるか分からなかったが、できることは進めたいと思っていた。コンセプトは「内田自身が写真を選ぶ」。2014年3月26日。約4年分の写真を抱え、ドイツ・ゲルゼンキルヘンの内田の元へと向かった。

岡田さんに会いたくて、ケガのまま約束の場所へ

負傷した瞬間、交代をアピール。「自分から言ったのはたぶん初めてかもしれない」と話す 【Getty Images】

――ケガをしたハノーファー戦。2点目のマックス・マイヤーへのアシストは見事でした。(右サイドを駆け上がり、ファルファンのスルーパスを受け、クロスを上げた)

 あのアシストはファルファンが見てくれていたからですよね。あそこにドンピシャで(ボールを)出してくれるファルファンがさすがですよ。

――その後、試合も2−0とほぼ勝利を確信している終了間際にケガをしてしまいました。

 あと、ちょっとで試合終了でしたよね。でも、少しがんばっちゃったんですよ。あの日、岡田さん(岡田武史/元日本代表監督)がテレビの番組収録で試合後に対談することになっていたので、スタジアムまで来てくださっていて。いいところを見せたいなと。

――でも、ケガをしてしまって、それどころじゃなかったですよね。

 キャンセルはしなかったです。なかなか会える方ではないですし。試合後に対談場所のデュッセルドルフまで運転して行きました。

――デュッセルドルフまで車で40分くらいかかりますよね。足が痛かったのでは?

 結構痛かったけど、約束だし面白そうだから行こうと。そのときはちょっとひどめの肉離れだと思っていて。運転中はいいんですけど、降りるときとか歩くときはめっちゃ痛かった。

ドイツでオペを迫られたが、日本帰国を選んだ

――内田選手は著書『僕は自分が見たことしか信じない』の中で、引退したら岡田監督にW杯直前で外された理由を聞きたいと書いていました。対談のときに聞きたかったことは聞けましたか?

 聞きたいことか……。でも岡田さんからは「内田を初めて見たときに、こんなに技術があっていい選手がいるんだ、日本のサッカーはすごいな、と思った。それで代表で試合に出てもらって。でも、W杯直前に(親善試合などで)負けが込んで、守備的にやろうと考えたときに、まだ君ではちょっと怖かったかな」と言われました。

――ケガの心配と、話したかった岡田さんとの対談。家に戻って、寝られましたか?

 寝られましたよ。普通の肉離れだと思っていたから。またリハビリかなと。

――ケガをした瞬間はどんな感じだったんですか?

 ひざの裏が爆発した感じがしました。とっさに自分から「交代して!」と言いましたね。自分から(交代したいと)言ったのはたぶん初めてかもしれない。でも、ケヴィン(・ボアテング)が「戻れ」って。もう3枚交代しているんだと思って戻ろうとしたんですけど、監督が「下がっていい」と。

――一晩寝て、病院へ行ったんですよね。

 最初は肉離れって言われたんです。肉離れは経験があるので「あ、オッケー、分かった」という感じでクラブハウスに行きました。そこでチームのトレーナーにも足をちょっと触ってもらった。そしたら「ウシダ(ドイツ語ではチを発音しないためウシダと呼ばれる)、腱がないぞ!」って。「もう一回調べた方がいいよ」となって、それで車で2時間くらいの病院にチームのスタッフと一緒に行きました。

 最初のドクターが診断して「オペ、オペ」と言っていて、そのドクターに「もう1人のドクターにも見せたいからちょっと待て」と言われて、後から来たドクターもオペだと言ってきた。昨日まで普通の肉離れって言われていたのに。それでアッキー(代理人の秋山祐輔氏)に電話して、「手術と言われているんだけど日本のドクターにも見てもらいたいから手配してください」とお願いしました。

――その時点でもまだ痛かった?

 とても痛かった。松葉杖がほしいって言おうか迷ったんだけど、それもかっこ悪いなと思って、歩いて帰ってきました。

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著者プロフィール

出版社、幻冬舎の編集者。雑誌「ゲーテ」副編集長。長谷部誠「心を整える。」、内田篤人「2 ATSUTO UCHIDA FROM 29.06.2010」「僕は自分が見たことしか信じない」、岡崎慎司「鈍足バンザイ!」、川島永嗣監修「サッカー英語ドリル」、中村俊輔「察知力」など、サッカー関連の書籍も担当している。

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