今季最もわいた日本バスケの“熱い週末” FIBA最後通告を前にしたファンの思い

河合麗子

地域密着で集客に成果を見せる――bjリーグ

bjプレーオフ最優秀選手に選ばれ、笑顔の琉球・岸本 【写真は共同】

 NBLファイナル最終日の翌日に行われたbjリーグファイナル、沖縄対秋田が対戦した有明コロシアムには、10026人(bjリーグファイナル過去最多)の観客が集まった。

 bjリーグには、日本代表候補選手は2人しかいない。この日本人選手層の薄さが課題といえるが、それでもNBLの3倍を超える集客を達成できたのはなぜなのか。

 日本プロバスケットボールリーグ=bjリーグの開幕は2005年。「地域密着型のプロチーム」を目指した新潟アルビレックスなどが実業団中心だったJBLを脱退し、日本バスケットボール協会(JBA)から独立する形で開幕したのがbjリーグだ。

 JBAから独立したことで、当初は所属選手の日本代表が選出されないなど、さまざまな制約があった。6チームでスタートとしたリーグは、9季目の今シーズン東西21チームにまで増加、すべてがプロチームで構成されている。その特徴は、エンターテインメント性あふれる演出と外国人枠を広げた迫力ある試合内容だ。

 NBLがコート上でプレーする外国人枠を1〜2人としている中、bjリーグは2〜3人。そのため代表選手は少なくても、試合はスピード感ある迫力の内容となっている。さらに試合に音楽やライティングなどを駆使した演出を取り入れ、エンターテインメントの要素が強い。

 こうした特徴をファンに浸透させ、NBLが目指す地域密着型の集客に9年前から取り組むbjリーグには、すでにそれぞれの地域に根付いたチームがある。

人気、実力ともに成長した秋田

今季、外国選手にもまれながらも成長を見せた秋田の富樫(右)。bj特有の育成スタイルが見られた 【写真は共同】

 その象徴的な存在が、今季ファイナルで対戦した沖縄と秋田だ。

 今季のレギュラーシーズン、リーグトップの1試合平均3219人を集めた沖縄。毎シーズン首位争いを展開し、高い演出力と地元沖縄出身のスター選手を育てることで、いまや国内トップの人気チームという呼び声が高い。沖縄については、何度かコラムで紹介しているのでそちらを参考にしてもらいたい。(下段関連リンク:「沖縄の人たちの心をつないだ八重山開催」参照)

 そして、その沖縄を越える存在感を今季のファイナルで見せたのが秋田だ。

 レギュラーシーズンの集客は、沖縄に次ぐ2位で2669人。リーグ参入4季目で初のファイナル、有明コロシアムに立った秋田席はチームカラーのピンク色に染まった。

 人気に火をつけたのは、参入2季目に就任した中村和雄ヘッドコーチ(HC)の存在が大きい。秋田県出身で、実業団、bjリーグともに優勝経験を持ち、日本女子代表の監督なども務めた名将は、スピード感あるランニングバスケやファンたちの心をつかむマイクパフォーマンスなどで秋田のファンを開拓していった。

 秋田ファンたちは、「秋田は能代工業などの高校バスケの印象が強かったと思うが、中村HCが秋田ノーザンハピネッツという新たなバスケ文化を作ってくれた」と賞賛する。

 秋田のファイナルに向けた応援は、有明に立つ前から始まっていた。有明に向かう飛行機で、中村HCに渡されたのは、客室乗務員手作りのメッセージカード。さらにファンが大勢乗り込んだ飛行機の中でも、秋田の健闘を祈る機内アナウンスが流れ、地上係員が機内の乗客に向けて、「ゴー、ハピネッツ」のボードを掲げたという。

 こうして、集客力リーグ1位と2位の対戦となったファイナルには、空路・陸路で多くのファンが集結。定員1万人の有明コロシアムがファイナル史上初の満席となった。

 決勝は、秋田の司令塔・富樫勇樹が活躍するも、試合中盤でリードを広げた沖縄が試合を制し2年ぶり3度目の優勝。しかし、今季のファイナルは、多くの外国人選手にもまれることで若き司令塔が成長していく、bjリーグの育成スタイルが垣間見られた試合となった。

これからの日本バスケに願うこと

 NBLは今季の課題を検証し、集客力向上を今後も目指していくという。メディアとのコミュニケーションを深め、露出を高める方法を探り、集客に成功するチームの事例を参考にしていく。特に実業団の集客を増やしていくことが当面のテーマだろう。

 一方のbjリーグは、JBAから独立することでスタートした事情から、「日本人の選手層」に課題があるが、今季は富樫ら若手選手の活躍が光った。外国人選手との試合機会を生かし、若手育成モデルを作ってもらいたい。

 それぞれの課題に奮闘する両リーグだが、FIBAからの通告は「10月末」まで。リーグ統合に向け、なんらかの進捗を見せなければならない。FIBAの通告について、NBLはJBAの意向を大前提にするとし、bjリーグはまだ公式な見解を示していないが、今季全日程が終了したことで、リーグ統合に関する協議は今後加速すると予想される。

 この熱い週末、私が最も印象に残ったのは、頂点を目指す選手を後押しする、ファン達の声援、祈る表情、歓喜の涙だった。1プレー1プレーに一喜一憂する会場の一体感に鳥肌がたち、ファンあってのバスケなのだと改めて感じた。
 外国人枠や演出方法など、試合スタイルに違いのある両リーグについて、あるチームのファンは「今のチームスタイルが好きで応援しているのに、リーグが統合してしまったらその良さが消えてしまうのではないか」と不安をもらした。

 この先の日本男子バスケ界のことを考えると、リーグの統合は必須。しかし、JBA、NBL、bjリーグの三者には、ファンの気持ちをないがしろにすることだけは避けてもらいたい。何よりも、日本のバスケを最も盛り上げているファン達への説明責任を果たした上で、将来を占う重要な協議にあたってもらいたい。

2/2ページ

著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント