オリックス・西勇輝を変えた責任と覚悟 エース金子の背中を追いかけて――

ベースボール・タイムズ

消えたマウンド上での笑顔

「金子さんのような投手になりたい」と西。エース金子の背中を追いかけて“進化・成長”を続ける 【写真は共同】

 そんな西に変化が見られてきたのは昨秋のキャンプ辺りから。率先して大きな声を出し、人一倍、走り、投げ込む姿からは、自らの立場を認識した上での、彼の気持ちがくみ取られた。いつしか、彼のトレードマークであるマウンド上での笑顔も消えていた。

「今までは、楽しみながら野球をやっている感じでした。でも、それだけではダメ。チームの一員として、チームに勝ちをもたらすことのできる投球を心掛けないとね。だから、自然に笑顔も消えるのかもしれませんね(笑)」

 西本人はそう自己分析する。それでも、マウンド上で投手が見せる所作としては、彼のそれは決して小さくなく、表情も豊かである。
「やはり強い気持ちは出していきたいですしね。逆に弱気を見せるわけにはいかない。そんな時、自分で自分を鼓舞するんですよ。マウンドでのつぶやきは自分に対する叱咤(しった)激励でもあるんです」

 今春、宮古島でのキャンプ。西の姿は、確実に、一歩前へ、一段上へと成長を遂げた。練習に対する姿勢や取材陣に対する態度など、全てが“オトナ”のそれとして映ったのである。彼の奔放さや天真らんまんさが消えたわけではない。それでも西が、より“オトナ”に見えたのは、彼から聞いた“あの言葉”のせいだったのかもしれない。

「今年は絶対に勝ちたい。勝てる投手になりたいんです。僕に必要なのは、自分が投げるボールに責任と覚悟を持つということ。1球1球全てに責任を負わなければならない。そう思って投げたいと思います」

 彼が言う責任とは、チームに、ファンに、そして何よりも自分に向けられたもの。入団6年目、23歳の若者が口にした責任と覚悟という言葉は決して軽くない。

「いつかは、金子さんに追いつき、そして追い越したい」

 今季、西はエース・金子千尋と登板間隔が離れた、裏側のローテーションに配置された。エース級2枚が、異なる連戦シリーズに分かれるのだから、連敗の未然防止に大きな効果を発揮する。同時に、エースへのリスペクトと憧憬(しょうけい)は、いつしか彼の成長とともに目標に変わっていった。
「いつかは、金子さんに追いつき、そして追い越したい。まだまだ僕にとって、金子さんの存在は大きすぎるし、その背中は遠い……。でも、やはり、そこを目指していかないと。金子さんのような投手になりたい」

 現在、西は好調バファローズの中心にいる。3、4月は防御率0.69という文句のつけようのない数字で5勝を重ね、月間MVPにも輝いた。そこから「7」まで伸びた開幕からの連勝は球団史上75年ぶりの快挙となった。
「長いシーズン、いつか調子が落ちる時もある。そうなって、いかに相手を封じるか。打たれたとしても、いかに最少失点に抑えられるか。そこが重要になる。調子が良い時よりも、悪い時にどうするか。そのことを今は考えています」

 そんな言葉からは、彼の今現在の立ち位置がうかがえる。森脇監督が大いなる期待をかける“ドラ息子”は、まさに“進化・成長”の現在進行形の真っ只中――。西勇輝が、指揮官にとっての“孝行息子”になる日はそう遠くない。

(大前一樹/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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