川澄、洗練された米国リーグで武者修行 再び世界一になるために必要なもの――

及川彩子

早くも認められた川澄の“才能”

「常に(米国の)弱点はないか日々探しています」という彼女。米国での経験をなでしこにいかに還元していけるか? 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そんな中、日本から移籍してきた川澄について、13年からシアトルを率いるローラ・ハーベイ監督は、「ナホは世界でのトップレベルの才能がある選手なので、チームの攻撃に幅を持たせるプレーをしてくれると思う。特にチャンスメークを作る力に秀でている」と高く評価する。

 開幕から数試合はサブに甘んじたが、数試合を経てスタメンに定着した上に、川澄にボールが集められ、攻撃の起点になる場面も増えている。監督やチームメートから川澄の技術力、プレーが認められ、絶大な信頼を受けている証拠でもある。
「なでしこがW杯で勝ったことで、尊敬されている部分もあると思う」と尹氏。先述したように、米国女子サッカーのプレースタイルが変化してきていることも川澄にとっては大きな追風になっているのだろう。

 初のアウェーゲームとなった4月30日のスカイ・ブルーFCとの試合、川澄は先発出場となった。気温9度、横殴りの雨が降る最悪のコンディションだったが、川澄は前半から攻撃の起点となり、チャンスをうかがった。
「(味方の選手が)ワイドに広がっていたので、サイドを使ったプレーを心がけた。最初はベブ(ベヴァリー・ゴーベル・ヤネズ)の所にボールを集めて、そこでテンポよく落として、サイドの選手を使っていこうと話していました」と川澄。ゴーベルも川澄と同様、INAC神戸から期限付き移籍で来た選手。互いのスタイルは熟知している。

 雨を含んだ芝は重く、パスが届かない場面も多数あったが、川澄はどん欲にゴールを狙った。
 前半24分、ゴール前に上がっていた川澄は、相手GKがこぼした球を押し込みゴール。米国リーグの初得点は、川澄のゴールへの執念から生まれたものだった。
「ラッキーな形で生まれた得点。ミーティングでも監督から『天気に左右される部分も少なからずあるので、ハイプレッシャーで行くように』と指示を受けていた。チームとしてはどんな形でも1点なので」と初得点に笑顔を見せた。
 
 後半5分には相手DFとGKをひきつけ、守備陣を崩しながら、ゴール前でフリーになったゴーベルにパスを出しシュート。「横パスは簡単に見えますけど、受ける方も大変なんです。ベブも米国初得点を決められて良かった」と、シュートを決めた仲間を称えた。
 暴風雨と寒さの悪コンディションの下、川澄は米国初ゴール、そして1アシストという活躍だった。

 試合後、歯をがたがたと鳴らしながら選手たちが足早にロッカーに駆け込む中、川澄は試合に駆けつけたファンにサインをしていた。
「日本人の方もいましたよね。こんな天気なのに来てくださって、ありがたいです」

再び世界の頂点に立つための課題

 川澄は日米のサッカーの違いをこう語る。
「日本は組織的でチームプレーでボールを大事にしながら、タイミングよくゴールを狙って行く。米国はボールを持ったら、まずゴール。勢い、迫力がある。米国サッカーは、イメージ通りですね。米国リーグでのプレーは初めてだけど、米国とは何度も対戦していたので、イメージはできていた」

 毎試合、その迫力ある選手たちのプレーを直に経験することは、来年のW杯や五輪に必ず生かされると感じている。
「米国選手と(国際大会などで)プレーするのは本当に嫌だけど、味方になるとこんなに心強いのかと感じています(笑)。それと、常に弱点はないか日々探しています」と笑う。

 そして渡米前に「日本の良さを見せつけたい」と話していたが、川澄の相手DFの裏をかいたプレーやスピード感あふれるプレーは、相手チームはもちろん、味方の選手も感心する。
「日本では自分のプレースタイルをよく知られている部分があるけれど、米国ではまだ。また自分のようなプレーをする選手も少ないので、味方の選手にほめてもらうこともある」と川澄。

 しかしそれだけで満足している訳ではない。
「1対1での強さ。そこで優位に立てないと攻撃につなげられないので、それは自分にとってチャレンジの部分です」
 川澄は157センチと小柄。しかし再び世界一になるためには必要なことだ。1対1のプレーに自信を持てた時、川澄にもなでしこにもプラスになる。

 ちなみに川澄は、練習前には日本でも行っている体幹トレーニングをしているが、チームメートに請われて、「センセイ」として指導をしている。
「これ以上、強くなられても困るんですけどねぇ」と川澄は困ったような表情で話すが、上手くなりたい、強くなりたいと思う気持ちは万国共通。川澄が大柄な米国選手たちに「迫力」を感じるように、米国選手は小さな川澄の強さに興味を持っているのだろう。切磋琢磨(せっさたくま)して強くなった彼女たちが、世界の舞台でどんなプレーをするのか、非常に楽しみだ。

 今日からベトナムでAFC女子アジアカップが開催される。日本代表は来年、カナダで行われるW杯の出場権を懸けて試合に臨む。
「5戦戦ってチームにとっても自分にも大事な時期。そういう中でチームを抜けるのは残念な気持ちもあります。でも代表は特別な場所。選んでもらえることは自分が必要とされているということなので、ありがたいと思っている。ここでの経験を代表戦でしっかり還元したいと思っています」

 アジアの地で川澄がどんなプレーをするのか。他国を相手に自分らしいプレーを見せられるのか、ぜひ注目したい。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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