シティー、圧倒的な戦力擁しリーグ制覇 W杯イヤーとプレミア優勝チームの関係

東本貢司

“イングランドの何たるか”を知る監督の功績

チーム復活への狼煙を高らかに上げたリヴァプールのロジャーズ監督 【Getty Images】

 しかしながら、まるで世界中から選りすぐった各種武道の達人で固めたような“進撃の集団”が最後に頂点を極めた――という、マンガチックな結末はあくまでも一過性のものだ。“達人”たちも歳とともに劣化する。それに、今後新たに補充するにしても、UEFAファイナンシャル・フェアプレー規則(FFP)が壁となって、もはやこれまでのようには進まない。いや、すでに第1回FFP適用の刃がシティーに突きつけられている今、来シーズン以降の、彼らの戦力分布図も順次リセットされていくに違いないのだから。

 必然的に、潤沢な資金源を盾にとった「ビジネス優先志向」のオーナーシップについても、全方向的に再考志向に向かうはずだ。いや、すでにその兆しは現実に露呈している。

 フットボールクラブ経営に無知をさらけ出したカーディフのオーナーの迷走と、それが多分に影響したチームの失敗。伝統をないがしろにしようとしたハルのオーナーに対して、ファンが強硬に待ったをかけ、そこからチームがFAカップ決勝進出を果たした事実。ついでながら、前オーナーが建立した「マイケル・ジャクソン像」の撤去・譲渡に走ったフルアムの新オーナーと、まるでそれが災いしたかのようなチームの不振、降格……。

 そして、チームスポーツ本来のコンセプト(もしくは戦術)を駆使して挑むチームには、元より柔軟な再生力とファンのこよなき後押しがある。そこで躍動するのが、下位ディヴィジョンで苦楽を経験し、“イングランドの何たるか”を知り尽くした苦労人の指導者たちだ。
 このことを如実に証明したのが、降格の危機的状況から見事に這い上がったクリスタル・パレス(ピューリス)であり、サンダランド(グス・ポジェ)であり、そしてもちろん、復活への狼煙(のろし)を高らかに上げたリヴァプール(ロジャーズ)に他ならない。

 もう一つ、“明日のチーム”を象徴する意味で、これまで無名の若い逸材を続々と輩出したサウサンプトンと、そんな未開のフィールドにて恐るべき“学習能力”を発揮し、戦う軍団にまとめ上げたマウリシオ・ポチェッティーノ監督を挙げておこうか。

W杯終了後のシーズンはユナイテッドが必ず優勝

今回は7位に沈んだユナイテッド。しかし、ポストW杯シーズンは必ず優勝している。果たして今回は…… 【Getty Images】

 では、プレミア創設以来初めて7位という屈辱を喫し、実に26年ぶりにヨーロッパの舞台から締め出されることになった「ユナイテッド」は? その行く末は?

 誰が新監督に収まろうと、大幅なオーバーホールは避けられない。どのみち、DFネマニャ・ヴィディッチの退団に続いて、DFリオ・ファーディナンド、DFパトリス・エヴラ、“プレーヤー”ライアン・ギグスにも別れの時が近づいている。香川真司の将来も不透明のまま。すべては、新しい指揮官の就任、「それから」の議論になる。現時点では何を述べても正解に近づけない。

 ただ、冒頭のデータ談義にしばし戻って、一つ「明るい要素」を提示しておこう。

 20チーム制になって以降の、過去4度の“ポスト”W杯・シーズンのすべて(98−99、02−03、06−07、10−11)で、ユナイテッドは見事リーグを制している。この際、ジンクスの“威力”を頼りに、むしろ楽しみに「何が起こるか」を見守るのが、王者にふさわしいと言えるのではないだろうか。

 最後に、プレミアリーグ・2013−14シーズンの私家版ベストイレヴンを選出しておく。当然だが、寂しいことにユナイテッドとスパーズからは誰ひとりとして……。

GK:アルトゥール・ボルツ(サウサンプトン)

DF:シェイマス・コールマン(エヴァートン)、ペール・メルテザッカー(アーセナル)、ヴァンサン・コンパニー(マンチェスター・シティー)、レイトン・ベインズ(エヴァートン)

MF:スティーヴン・ジェラード(リヴァプール)、ヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティー)、エディン・アザール(チェルシー)、ダヴィド・シルヴァ(マンチェスター・シティー)、ジェイソン・パンチェオン(クリスタル・パレス)

FW:ルイス・スアレス(リヴァプール)

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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