シティー、圧倒的な戦力擁しリーグ制覇 W杯イヤーとプレミア優勝チームの関係

東本貢司

W杯イヤーは“多国籍”チームが強い!?

W杯イヤーのシーズンを制したシティー。過去を見ると、多国籍化したチームが強かった傾向がある 【Getty Images】

 今シーズンのプレミアリーグが各チーム当たりで残り10試合を切った頃、密にあるデータに注目していた。それは他でもない、ワールドカップ(W杯)本大会との兼ね合いにおける奇妙な一致についてである。

 プレミア創設以後の“World Cup Year”は、前回2010年までで計5回。そこから、フットボールリーグ時代の名残による22チーム編成で行われていた頃の“第一回”1994年を除外すると、残る4回のリーグ覇者はわずか2チームに絞られる。

 アーセナルとチェルシーだ。

 もちろん、“その時点”でプレミアリーグを制したチームといえば、このロンドンの二大名門以外では「初代チャンピオン」で圧倒的な最多優勝回数を誇るマンチェスター・ユナイテッド、そして95年に一度きりのブラックバーンの4つのみなのだからして、とりたてて不思議な現象というわけではない。

 しかし、そのアーセナルとチェルシーがいずれも“連覇”(それぞれ、1998年と2002年、2006年と2010年)しているという事実の方ならどうだろうか。

 最新データ(13−14)によると「国産プレーヤーのスタメン出場率」がなんと34%にまで後退、ますます多国籍化が進む一方のプレミアだが、今から「4年前まで」のアーセナルとチェルシーは、いち早くその先頭に立って常にどこよりも高い外国人占有率を誇っていた。すなわち、イングランドは過去「4度」の機会のいずれにおいても、異邦の助っ人で固めたチームがリーグを制覇した直後に、W杯に臨んだことになる。

リヴァプールは現地ファンの期待を背負ったが……

リヴァプールは終盤に失速。スアレス(写真)、ジェラード頼みだったところが、その要因だった…… 【Getty Images】

 この事実だけをもって、ほぼ毎回優勝候補の一角にノミネートされてきたスリー・ライオンズ(イングランド代表の愛称)の「失意」に直接結び付けようとするわけではないとしても、現地ファンの間では密に「今度こそ」の希望を抱いて、シーズン大詰めの経緯を見守っていたのではあるまいか――。

 言うまでもなく、不動の代表キャプテン、MFスティーヴン・ジェラードに、FWダニエル・スタリッジ、MFジョーダン・ヘンダソン、MFラヒーム・スターリングというとびきり活きのいい新代表候補の若手を擁する「リヴァプール・プレミア初戴冠」への期待だ。まるで、それが「何かを変える歴史的“おまじない”」になるとでも言わんばかりに。

 だが、その「夢」は無残に打ち砕かれた。シーズンを通してウォッチングしてきた方ならおおよそ察しがつくように、ブレンダン・ロジャーズ監督が打ち出す鮮やかなアタッキングフットボールの輝きも、詰めの段階で綻びをさらけ出し、色あせた格好になってしまった。

 その要因を、悲願のプレミア初優勝が現実となって見えてきた瞬間からの「精神的震え、プレッシャー」と分析する人もいるだろう。あるいは、シーズン終盤の話題を独占したクリスタル・パレスの復活、その立役者にしてチーム再生の“新名人”トニー・ピューリスの“剛腕”が災いしたとして、あの、3−0から追いつかれた悲劇的ドロー(5月5日、第37節)を「歴史を動かした事件」と記憶に刻み込む向きもいるかもしれない。

 しかし、あえてマクロな視点に立てば、やはり、マンチェスター・シティーの持つ他の追随を許さない「個の質量」、その柔軟な奥行と幅に、ジェラードとFWルイス・スアレスという絶対的大黒柱とチームパフォーマンスの冴え、もしくは勢い、この2点頼みにならざるを得ないリヴァプールが、あと一歩及ばなかった――ということに尽きるのではないか。

隠れた今季の最優秀選手はFWジェコ

 この図式は、他のライバルたちにもほぼ等しく当てはまる。

 チームきってのファンタジスタ、MFフアン・マタを袖にしてでも、ジョゼ・モウリーニョ印の「勝つ戦術」をインプットされてチームプレーに徹したチェルシー。MFメスート・エジルの絶大なカリスマと、FWオリヴィエ・ジルーの本格化に引っ張られて序盤を席巻しながら、その「二枚看板エンジン」に疲労の綻びが見え始めて“グリップ”が甘くなったアーセナル(序盤に大活躍したMFアーロン・ラムジー、風格の点で一皮むけたFWテオ・ウォルコットの故障離脱も痛かったとはいえ……)

 また、過去の戦績の上でシティーにとって最大の難敵と目されるエヴァートンにしてみても、個の対決では一歩も二歩も譲り、必然的に余裕のない戦いを強いられてわずかに後手を踏んだ印象が強い。

 そして、何よりもマンチェスター・ユナイテッド――。特にディフェンス面の脆さが顕著になってからは、ファーガソン時代から売りにしてきた、しなやかでポジティヴな二枚・三枚腰のチームプレーがすっかり影を潜めた。
 デイヴィッド・モイーズの「硬直化した戦術」を指摘する声も少なくないが、真の問題の根は「思い切って攻めに徹しきれない“ウィルス”に罹ったような自信の欠如」にあったと見るべきだろう。

 つまりは、少なくとも今シーズンに限ってはシティーの圧倒的な戦力、その円熟具合、さらには多彩なバラエティーが、最終的にものを言う結果になったのだ。ダヴィド・シルヴァ、ヴァンサン・コンパニー、ヤヤ・トゥーレという選手については言うに及ばずだが、アウェイゴール決定率7割強を誇るFWエディン・ジェコによる手練の“居合い”の切れ味は、何度も劣勢を跳ね返し、苦戦を勝利に結びつけた。その意味では、彼こそ隠れた「The Player of Year」と呼ばれてしかるべきかもしれない。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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