成長著しい猶本光が今季“覚醒”の理由 浦和好調の立役者がなでしこで試される

江橋よしのり

転機はU−20女子W杯準決勝での惨敗

8日の国際親善試合ニュージーランド戦でなでしこデビュー。わずか7分程の出場ながらも、持ち味を発揮し確かな一歩を踏み出した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 彼女が個人能力、特に運動能力の強化の大切さを痛感したのは、2012年「ヤングなでしこ」が一躍脚光を浴びたU−20女子W杯の時だった。日本で開催されたこの大会で、猶本は全6試合にフルタイム出場を果たし、準決勝のドイツ戦で0−3と完敗した。そのドイツ戦は、彼女にとって、サッカー選手として価値観を大きく揺さぶられる転機になったという。

「技術を磨くだけでは世界で戦えない。身をもって痛感しました。もちろん、日本の選手は技術に秀でていると思います。けれど、ドイツやナイジェリアのような、サッカー全体のスピード感が明らかに違う相手と試合をやってみると、私たちは技術を発揮する前につぶされてしまったんです」

 たとえば、ボールを「止めて」「蹴る」というサッカーの基本動作をするにしても、モーションの途中で相手の守備につかまってしまった。一瞬のうちに体を寄せられたり、パスコースに足を出されたり……。その一瞬の差が、世界水準と水準以下の差だと、猶本は実感した。

「だからといって、ドイツ人とフィジカルで真っ向勝負をしようと考えるのも、現実的ではありません。大事なのは、相手の速いプレッシャーの中でも技術を出すこと。そのための体づくりが必要だと感じたんです。でもそれを“フィジカル”っていう言葉にしちゃうと、うまく伝わらないんですよ。表現が難しいです」

 そう悩んだ猶本の表現を補うとすれば、「日本人に必要なのは『技術の速さ』を鍛えること」なのではないだろうか。相手からの強いプレッシャーの中で発揮できる技術、高速で動きながらも精度がブレない技術。猶本の目指す選手像は、そのような個人の運動能力を土台として、組織の中で力を発揮する選手だと考えられる。

なでしこジャパン初招集で試される力

 筑波大と浦和での二重トレーニング生活を始めて3年目の今季、猶本の取り組みは成果となって現れ始めた。なでしこリーグの舞台で成長をうかがえるポイントは2点ある。1つ目は、守備の場面で以前よりもボールを奪える回数が増えたこと。2つ目はよりゴールに関われるようになったことだ。いずれの局面でも、「最初の1〜4歩目での初速・加速が伸びるようになった」という本人の分析どおりのパフォーマンスが見える。なお、筑波大の先輩である安藤は「5メートルを4歩で、1秒でダッシュする」という[5−4−1]の初速トレーニングを自著『KOZUEメソッド』で紹介している。猶本も同様のトレーニングで自らを磨いているのだ。

 浦和での活躍ぶりを、なでしこジャパン(日本女子代表)の佐々木則夫監督は「決定的な仕事ができている」と評価し、5月14日に開幕するアジアカップのメンバーに招集した。猶本にとって初のなでしこジャパン入りだ。そして5月8日の親善試合で、猶本は代表デビューを果たした。出場時間は7分程度と短かったが、「思い切りプレーできた」と振り返る。だが、「組織的なプレーに関しては、新しい情報がいっぱい入ってきていて、少し混乱しています。遜色なくやれているという手応えは、あまりないです」。

 なでしこジャパンという高度なコンビネーションを要するチームで、周囲と意図を合わせてプレーできるようになるには、まだ時間が掛かりそうだ。合宿招集からアジアカップ終了まで約3週間の代表活動は、猶本にとって、自らの力をなでしこジャパンというチームに還元することを学ぶ場となる。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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