武豊キズナも飲み込まれた淀の魔物=目覚めた怪物フェノーメノ再び天下獲り

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次走、宝塚記念へと切り替えて

次走の宝塚記念で巻き返しを 【スポーツナビ】

「距離じゃないと思う」。そう話したトレーナーに対し、ジョッキーは「結果的には距離というのもあるかもしれない」。ただ、それもすぐに「でも、今日のところはよく分からない」と再び繰り返したところを見ると、レース直後の現時点では、陣営は“敗因はコレである”とはハッキリつかめない様子だった。
 外野から見ている分には、距離だ、馬場だと敗因を断定づけるのは簡単だ。僕自身、道中で大きな問題はなかったのに二段ロケットが出なかったキズナの姿を見ると、燃料切れ=距離が長かったのかなと思ってしまう。しかし、本当の敗因は当事者じゃないと分からない面が多い。特に「馬というものは分からないね」と、ある種、達観したように語った佐々木晶調教師の表情が印象的だったし、純粋なステイヤー血統が少なくなった現在の日本競馬で、淀3200メートルを実力・人気どおりにすんなりと勝つのは難しくなっているのかもしれない。

 もちろん、大事なのはこの後だ。大目標は秋の凱旋門賞なのである。フランスへ勇躍乗り込むためにも、次走のGI宝塚記念(6月29日、阪神2200メートル芝)がより重要になってくる。

「次、巻き返したいですね」(武豊)
「宝塚記念もありますからね、今度は盛り返してくれるでしょう」(佐々木晶師)

 2人とも悔しさの中にも、すでに次走へと気持ちを切り替えていた。初夏の阪神グランプリでは、世界を制したジャスタウェイ、ジェンティルドンナも出走を予定しており、さらに厳しい戦いが待っている。しかし、そこを突き破ってこそ日本の新エースたる資格を得るものだ。世界へと再び旅立つ前に訪れた試練を、武豊とキズナはどのように乗り越えてみせてくれるのだろうか。

蛯名フェノーメノ“自分の競馬”に徹して

“自分の競馬”に徹したと蛯名、フェノーメノも叩き2走目で本来の実力を出し切った 【スポーツナビ】

 キズナが“いつも”の伸びを発揮できずもがいている中、“いつも”の競馬に徹して勝利をもぎ取ったのが、蛯名正義とフェノーメノだった。

「キズナを気にしない、と言ったらウソになりますが、気にしないように自分の競馬に徹するというのが今回のテーマでしたから」

 蛯名が振り返ったレースは、ゲートで暴れ始めた隣のゴールドシップにつられてフェノーメノもうるさくなったが、ここをなんとか耐えて好発を決めると、1周目の下りでも行きすぎないようにジッと我慢の2文字。「とにかくスムーズに、リズムよくと心がけていました。ヨシッ!と安心できる場面はなかった」というくらい、きついレースとなったが、戦前に掲げたテーマ通り、蛯名はフェノーメノただ1頭の競馬に集中していた。
「後ろの馬を気にしないように、自分のタイミングと言いますか、感じるままに行きました。最後は内にモタれて苦しそうだったんですが、よくしのいでくれましたね」

秋、GI3連戦をフル参戦できるように

今年こそ秋のGIフル参戦で現役最強をアピールしたい 【スポーツナビ】

 他ライバル陣営に惑わされることなく、前年の天皇賞馬の力を出し切ることだけに全神経を集中させていた蛯名と、それに見事に応えたフェノーメノ。そして、長期休養を経てフェノーメノ本来の実力を出せるように仕上げた厩舎の力が合わさった、文句なしの連覇だった。
「去年の秋は一走もできなくて、みんな悔しい思いをしました。何とか今年復帰して、ここまでの頑張りが結果にできたことが本当に良かったですね」

 昨秋を棒に振った休養は左前繋靭帯炎のためと発表されていたが、戸田調教師によれば脚部不安そのものは程度が軽く、実際のところは疲れから来る内臓系などの体調不良が原因だったという。その体調面の不安を克服し、日経賞5着から鮮やかな変わり身で再び現役トップクラスの力を誇示。となれば今年こそ、1年を通して走り切り、誰が日本最強かを示さなくてはならない。
「この後はまだハッキリとは決まっていませんが、秋は天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念とフル参戦させたい。そこに向かっていくに当たってのローテーションを考えていきたいですね」(戸田調教師)

 現在の競馬で天皇賞・春を実力・人気どおりにすんなり勝つのは難しいと先述したが、フェノーメノはその春の盾を2年連続で制覇。それだけでも破格の価値があり、歴史になぞらえるのならばその力はマックイーン、オペラオー級ということになる。眠りから目を覚ました怪物が、再びの天下獲りへ大きな一歩を踏み出した。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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