岡崎慎司、マインツで上昇した成長曲線 “エゴイスト”な点取り屋への覚醒

ミムラユウスケ

入団当初は清水8番目のFWも…

清水には8番目のFWとして入団した岡崎だが、今では日本代表に欠かせないキープレイヤーとなっている 【Getty Images】

 岡崎は滝川第二高校入学時にも「高校3年間で試合に出ることができると思わない方がいい」と言われたこともあるし、清水エスパルスにも8番手のFWとして入団した。にもかかわらず、周囲の予想をくつがえすような成長を続けてきた選手なのだ。多くの人にとって失敗と映るシーズンは、岡崎にとっては飛躍のために身をかがめるシーズンだったわけだ。

 もっとも、昨シーズンの苦い経験は、自身の環境を変えるために役立っただけではない。岡崎自身の意識も大きく変えてくれた。

 岡崎はエゴイストになった。

「そんな“イイ人”でよくサッカー選手になれたな」

 日本代表のチームメイトであるMF本田圭佑(ミラン/イタリア)からあきれられたこともあるという岡崎は、エゴをむき出しにするタイプではなかった。

 むしろ、チームのために汗を流して、勝つことが楽しいのだと考えるタイプだ。もちろん、そこで自分がゴールを決められれば最高だと思っていたのだが……。だから、岡崎は、シュツットガルトでは守備に回ることもいとわなわかった。

“イイ人”から“エゴイスト”への変化

 そもそも、エゴイストになるのには抵抗があった。エゴイストなストライカーは、ワガママなだけで、チームの輪を乱すような人間であるように感じていたからだ。

 でも、マインツに来てから岡崎はあることに気がついた。

 自分がエゴイストになり、ゴールを決めることにこだわったとしても、そこでゴールを決められるのであれば、チームのためになるのではないか、と。

 もっとも、気がついただけでは何も変わらない。行動に移さなければ意味がない。
「エゴイストになってみようかなぁ……」
 少しずつ、そう考えるようになった岡崎の背中を押してくれたのが、マインツで重ねてきたゴールの数と意味だった。

 実際、彼がゴールを決めた試合のマインツの成績は7勝1分1敗。しかも、14ゴールのうち、決勝ゴールが5つ、同点ゴールが3つもある。エゴイストになったチーム得点王が、他の選手にまねできない形でチームに貢献している。

 例えば、昨年11月のブレーメンとの試合では、ドイツ代表にも選ばれたことのあるFWニコライ・ミュラーにパスを出さず、ものすごい剣幕で怒鳴られたことがあった。ミュラーがいたのに、岡崎がやや強引にシュートを放ったからだ。それでも、この試合では決勝ゴールを含む、2ゴールをマークした。ゴールを決めることで、チームの勝利に貢献したのだ。だから、あの試合のあと、岡崎はこう語った。

「味方の選手を使わなくて、怒られても、点を取れれば良いと思ってやっていたので。それで1点入って、とりあえず楽になりました(笑)」

 怒られても、強引だと非難されてもいい。ゴールを決めることで、チームを勝たせてみせる。

 今の岡崎は胸を張ってそう答えることができる。

苦しんでも成長の糧に変えてしまう岡崎の才能

 14ゴールを決め、ヨーロッパの主要リーグで最も多くのゴールを決めた日本人選手となった岡崎は、1週間前にようやく香川の持つ記録に並んでからの心境の変化をこう明かした。

「今までは(日本人のゴール記録のタイとなる)13点取りたいなと思っていたけど、そこにたどり着いたらまた、欲が出てきた。たどり着くまではそんなに欲はなかったんだけど、見えたら、さらにつかみたいという思いが出てきて……」

 その次に頭に浮かんだのはこういうことだった。

「14点目を取りたいな」

 自らの内側から欲望が泉のようにわいてくる。そして、その欲を満たすためにゴールを決める。エゴイストの行動そのものだ。

 普通の選手なら、失意のシーズンを通して自信を失ってしまうかもしれない。でも、岡崎は苦しんだ時間を成長の糧にしてしまう。

 その能力こそが、岡崎に与えられた才能なのである。

「鈍足バンザイ! 僕は足が遅かったからこそ、今がある。」(幻冬舎)

【幻冬舎】

 日本代表での通算ゴール数は歴代3位で、現役の代表選手としてはトップ。今シーズンのマインツではすでに14ゴールを決め、日本人のヨーロッパ主要リーグにおける最多ゴール記録を更新中。稀代のストライカー・岡崎慎司の初めての著書。

 足が遅いからこそ、岡崎は驚異的な成長を遂げてきた。誰にもマネ出来ない話ではなく、みんながマネすることのできそうなエピーソードが満載。
 ビジネス書であり、育児本でもあり、スポーツをする子どもたちのメンタルの教則本でもある必読の一冊。

☆岡崎慎司プロフィール☆
1986年4月16日生まれ。兵庫県出身。
滝川第二高校では、1年時からレギュラーとして活躍。
3年連続で全国高校サッカー選手権に出場。
高校卒業後に清水エスパルス入団。
2011年ドイツ・VfBシュツットガルトへ、
2013年ドイツ・1.FSVマインツ05へ移籍。
サッカー日本代表通算38ゴールは歴代3位
(73試合/38ゴール ※2014年4月1日現在)。
受賞歴は、2009年度Jリーグベストイレブン、
2009年IFFHS世界得点王(年間15得点)、
2010年宝塚市特別賞など。174cm、76kg。
ポジションはフォワード。

岡崎慎司オフィシャルブログ『侍』
http://ameblo.jp/okazaki-shinji/

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著者プロフィール

金子達仁氏のホームページで募集されていた、ドイツW杯の開幕前と大会期間中にヨーロッパをキャンピングカーで周る旅の運転手に応募し、合格。帰国後に金子氏・戸塚啓氏・木崎伸也氏が取り組んだ「敗因と」(光文社刊)の制作の手伝いのかたわら、2006年ライターとして活動をスタートした。そして2009年より再びドイツへ。Twitter ID:yusukeMimura

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