岡崎慎司、マインツで上昇した成長曲線 “エゴイスト”な点取り屋への覚醒

ミムラユウスケ

岡崎の長所を見いだしていたハイデルGM

マインツ移籍でFWとして活躍を見せている岡崎。監督、GMからの信頼も厚い 【Getty Images】

 推定150万ユーロ(約2億1000万円)の移籍金を用意して、シュツットガルトから岡崎を買い取ることを決めたのがマインツのハイデルGMだ。人事に関する決定権を持つ彼の頭の中には、岡崎がマインツで成功する明確なイメージがあった。ニュルンベルクとの試合を引き合いに出して、岡崎を獲得した理由をこう説明する。

「86分のシーンでは、一番前から一番後ろまで走って、相手選手に体当たりした。それがシンジだ。彼がゴールをするためにピッチの上に立っているだけなら、その価値は半分しかない。彼は守備の能力が素晴らしく、さらに、ゴールを決められる選手なのだ。私たちにとっては完ぺきな補強だったよ」

 岡崎を獲得する前に、ハイデルGMは詳細な分析をしてきた。だからこそ、岡崎の長所と短所をよどみなく答えることができるし、その能力を生かすためにはどうすればいいのかを熟知している。

「シュツットガルトにいた時、シンジはサイドのMFとしてプレーしていた。でも、彼は100メートル走の選手ではない。彼に弱点があるとしたら、スピードだ。だから、(長い距離を走り続ける)スピードがあまり必要ではないポジションでプレーしているのだ。でも、ペナルティーエリア内での彼は王様だ」

トゥヘル監督も岡崎のプレーに惹かれていた

 実は、岡崎は足が遅い。

 先日もマインツの中で短距離走のタイムを測定したら、チームで12番目だった。にもかかわらず、味方のパスに合わせて動き出す能力は早い。だからこそ、ゴールまでの距離が短いFWの位置で起用すれば、彼の短所は目立たず、長所が生かされるのだ。それもハイデルGMにとっては自明のことだという。

 岡崎に惹かれたのはハイデルGMだけではない。現場の責任者である、トーマス・トゥヘル監督も同じだ。

 昨年6月に行われたコンフェデレーションズカップで、イタリア戦、メキシコ戦と連続してゴールを決めている岡崎のプレーを見たトゥヘル監督は、ハイデルGMに何度もこんなショートメッセージを送りつけている。

「誰か(他のクラブの関係者)がオカザキのプレーを目の当たりにしたなら、(移籍金が高騰して資金力の恵まれない)うちのクラブに来てくれなくなるぞ!」

前シーズンから岡崎に興味があったトゥヘル監督

 トゥヘル監督と岡崎をめぐる、こんなエピソードがある。

 今シーズンの序盤、岡崎が迷いながらプレーしていた時のことだ。監督室に呼ばれた岡崎は、ある映像を見せられている。昨シーズン、マインツがシュツットガルトと対戦する前に参考にしていたスカウティングビデオだった。そこに映っていたのは、シュツットガルトのユニフォームを身にまとってプレーする岡崎の姿だった。シュツットガルト時代に見せていた具体的なプレーを参考にしながら、トゥヘル監督は岡崎に望むプレーを説明していった。

 この映像を用意できたのは、シュツットガルトでは評価されていなかった岡崎のプレーをトゥヘル監督が評価していたからに他ならない。トゥヘル監督は、チームのために走れるという岡崎の資質に興味を持っていたのだ。

 もしも、昨シーズンの岡崎が誰にでも分かるような活躍を見せていたら、シュツットガルトの首脳陣は彼を手放さなかったはずだ。岡崎がマインツにやってくることもなかっただろう。

 低調なものだったと総括されかねないシーズンを、未来への糧にするあたりが実に岡崎らしい。

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著者プロフィール

ライター/インタビュアー/コメンテーター。2006年に活動をはじめ、2009年1月よりドイツへ。2016年9月22日、Bリーグ開幕日に再び日本に拠点を移して、活動中。著書(共著執筆含)武尊「光と影」、香川真司「心が震えるか、否か」、「千葉ジェッツふなばし熱い熱いDNA」、横浜ビー・コルセアーズ「海賊をプロデュース」、内田篤人「淡々黙々」、構成:岡崎慎司「鈍足バンザイ!」。Xアカウント ID:yusukeMimura

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