ハープスターとトゥザワールドという、まったくベクトルの違う素質馬２頭を、見事、春の大舞台に導いた川田。トゥザワールドにとって、初めて重賞級との手合せとなった弥生賞も、「大きな収穫のあったレースでしたね」と振り返る。

「前に行く競馬、控える競馬はそこまで試してきたので、弥生賞では、あのメンバーを相手にどういう競馬ができるのかを試してみたかったんです。僕が少々余計なことをしすぎたので、結果的に最後は苦しい競馬になってしまいましたが」

　７枠から好スタートを切ると、中団の外目をゆったりと追走。が、ペースが遅いと見るやいなや、向正面で自ら動き、前のペースを上げにいった。驚くべきはその後。内にいた馬たちをひとしきり行かせると、自分は再度、いったん控える形に。そこから抜群の手応えで４コーナーを迎えるわけだが、道中の一連の動きは、まさに鞍上の意のまま。中団から好位にいながら、レース全体のペースを操ったといっても過言ではない。

「外枠でしたし、このままじゃ外々を回ることになるので、もうちょっと前に流れてほしいなと。４コーナー手前で戸崎さん（３着アデイインザライフ）の手応えが良くて、相手がどれだけ走るかわからなかったので、あえて横に付けたりとか。そんな感じで、道中いろんなことをしながら終始外を回ってきたので、最後に苦しくなったのも当然ですよね。新馬以外では初めて目一杯走りましたが、ひとついえるのは、自分の競馬に徹したわけではないということ。それでいて勝ってくれたわけですから、改めて大した馬だなと思いました」

「本当は、もう少し楽に勝てると思っていたんですけどね」と、言葉を続けた川田。最後は外を猛然と伸びてきたワンアンドオンリーとの首の上げ下げ。実に際どい決着となった。

「ワンアンドオンリーは、僕が思った以上に強い馬でしたね。力を計れたといえばそうですが、向こうもスムーズな競馬をしたわけではないので、手強い相手だと思います。ほかにも、イスラボニータやアジアエクスプレス、同厩舎のトーセンスターダムもいますからね。今年の牡馬たちは、２強、３強では収まり切れない。馬は本当に器用で、なんでもできる賢い子ですが、ジョッキーの立場でいえばしんどいメンバーですよねぇ（笑）」

　ハープスターの断然ムードで迎えた桜花賞から一変、五指に余る有力馬が集う皐月賞。しかもコースは、紛れの宝庫ともいえる中山芝２０００ｍだ。桜花賞が度胸試しなら、今度は完全に腕試しか。

　川田自身に目を向ければ、４月１３日終了時点で４３勝をマーク。全国リーディングトップにして、勝率は驚異の２５．９％である。ほかのトップジョッキーと比較して、騎乗数は６割程度。それでいてのこの成績は、尋常ならざるものだ。たしかに昨年も、年間勝率はトップ（１６．６％）だったが、今年の数字はその比ではない。はたして川田のなかで、どんな変化があったのか。

「去年までは、動かない馬を無理やり動かしていたところがあったんですが、内田（博幸）さんに、『お前は頑張りすぎだ。必死過ぎる』とアドバイスをいただいたことがきっかけで、自分のなかで大きな変化がありました。それまでは、レースの流れやほかの馬の手応えばかりを意識していましたが、自分が乗っている馬の精神状態を、より重視するようになりました。その結果、改めて馬は動物なんだなと。ハープスターに限らず、走りたいという気持ちにならなければ馬は動かないということを、ここ数カ月で強く感じています。がむしゃらに頑張るばかりが結果につながるわけではないということを、１１年目にして改めて理解したところです」

　内田の言葉をきっかけとした心境の変化が、今年の成績につながっているのは数字を見れば明らかだ。その延長線上にあるのが、先週の桜花賞制覇。「それだけの馬たちに乗せていただいていますから」と、周囲からのバックアップを強調する川田だが、ジョッキーとして“一流”への階段を上り始めたのは間違いない。

　脂が乗り切ったジョッキーと、その鞍上の意のままに動く頼もしいパートナー。トリッキーな中山２０００ｍにおいて、やはり最強のコンビではないだろうか。

「トゥザワールドとは、本当にいろんなレースを試しながら、ここまでたどり着くことができました。課題をクリアしてきたというよりも、こちらの要求を一戦一戦、高いレベルでこなしてくれてきた感じです。それもこれも能力の高さゆえだと思いますし、本当にどんな競馬でもこなせる馬。混戦とはいえ、結果を得るだけの手応えはもちろんあります」

　ハープスターを桜の女王に導いたことで、川田自身、自信も勢いもより増したはずだ。パートナーへの強い信頼を武器に、再び頂点を目指す今週末。はたして川田の人差し指は、中山の空に届くのか──２０１４年皐月賞、最後の最後まで目が離せない一戦になりそうだ。