恩師が明かす巨人・菅野智之のすごみ 誰もが認めるエースへ、転機の2年目

ベースボール・タイムズ

横井監督が指摘する菅野のターニングポイント

東海大学時代の恩師、横井監督が「ターニングポイント」と語ったキューバ戦。2本の本塁打を浴びたが、3イニング目はしっかり3者凡退に仕留めた 【写真は共同】

 菅野が大学5年目を迎えようとしていた12年春の某日、筆者が取材で横井監督を訪れると、約4年前に行われた世界大学野球選手権のキューバ戦の話になった。この試合で7回から登板した菅野は、先頭打者のアドレミス・ディアスに本塁打を打たれる。8回には2死からヨエニス・セスペデス(現アスレチックス)にセンター前安打を放たれると、続くホセダリエル・アブレウにはライトスタンドに運ばれた。
 しかし、9回は強力打線を3者凡退で仕留める。試合後の会見でキューバのエドゥアルド・マルティン・サウラ監督が、「彼はものすごい才能を持っている。ただ、才能というのは熟するタイミングがある。もう少し時間がかかるだろうが、きっと彼はものすごい大物になると思う」と絶賛していたことをよく覚えている。

 この一戦が、菅野にとってターニングポイントになったと横井監督は言うのだ。
「詰まってバットが折れたのに、ライトにホームランを打たれた屈辱を味わったのが良かったと思う。抑えて、通用するボールがあることを確認できたのも良かった。菅野というピッチャーは、良いことだけで成長してきた子ではない。とにかく試練を与えられて成長している子だから、あいつの価値があるんです。結果的に見ると何連勝もしているし、かなりの数字を残しているけど、そのポイントになっているのは負け試合。負けるたびに成長し、課題を克服してきました」

 東海大相模高校時代から注目を集めていた菅野は、大学1年秋から先発投手として活躍する。2年秋に首都大学リーグ戦のMVPに輝くと、周囲は一層熱い視線を注ぐようになった。横井監督は当初、心配な眼差しを向けていたという。だが、杞憂(きゆう)だった。
「騒がれるようになって、果たしてこの子はどうなっていくのかと思っていましたけど、逆に彼を人間的に成長させました。後輩、周りへの気配りがすごくできるようになった。マウンドに上がると闘志をむき出しにするような姿は、入学当初はなかったんです。でも、徐々にそういうのが出るようになった。かつ、人への気配りもできる。こっちがびっくりするくらいの選手になりました」

さらなる高みを目指して

 大学時代、負けた悔しさをバネに成長してきた菅野だが、プロ入り後は少々変わってきたのかもしれない。昨季の日本シリーズ第6戦、そして今年の開幕戦のような大一番を勝利することで、経験値を高めているのではないか。そう菅野に振ると、あっさりとかわされた。
「いつもより気合いが入るのは確かです。でも、特別な意識はありませんよ」

 4月4日、中日戦で今季2戦目のマウンドに上がった菅野は、8回までに130球を投げて被安打4、無失点の好投でチームを勝利に導いた。セットアッパーの山口鉄也がインフルエンザで離脱中のなか、「最低7回以上は投げたい」という言葉通りの仕事ぶりで、相手に付け入るスキを与えなかった。
 まるで開幕戦の後、自身で話していた言葉を実行するかのようだった。
「(周囲から)求められているのはもっと高いと思います。良かったと言って満足するのではダメ。今日のピッチングでは、自分を開幕投手に選んでいただいたスタッフ、選手も納得してくれないと思います」

 菅野が目指しているのは、誰もが認めるエースの座だ。主戦級と投げ合うハードルを乗り越えることで、自身にも箔(はく)が付いていく。あとに振り返ったとき、2年目の今季は、菅野の野球人生のターニングポイントになっているかもしれない。

(中島大輔/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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