国際的な威信を懸けて戦うバルセロナ ラ・マシアは何を追求するべきなのか?

“模範的とまで言える育成”の先に成功を求めすぎたバルセロナ

フットボール界の先駆者となり、多くのクラックを輩出してきたラ・マシアの進むべき道とは……フットボールは岐路を迎えたのか 【Getty Images】

 バルセロナ側に過剰なまでの被害者意識があることも確かだ。まずFIFAの規約19条に対する違反があったのは事実であり、そうでなければ今回の処分を受けることもなかった。それに長らく続けてきたFIFAとの交渉において、最終的な処分を受ける前の段階で解決策を見いだせなかったのはクラブのミスである。

 ラ・マシアにおいて素晴らしい、模範的とまで言える育成が行われてきたのは事実だが、彼らはその過程において成功を求め過ぎ、またグレーな部分を手つかずにし続けてきたことを認識すべきだ。

“ラ・マシア”はバルセロナそのものをも超える存在!?

 そもそもラ・マシアは何を追求しているのか? スーパークラックの発掘なのか、人間教育なのか、その両方なのか? 2010年の成功はその双方の実現を可能にする人材がいることの証だと言える。だが一方でトップチームに辿り着けない選手たち、プロにもなれなかった選手たちがその後どう扱われていくのかも注視しなければならない。

 ラ・マシアの成功は、バルセロナそのものをも超える存在となってしまったのかもしれない。その素晴らしく健全な育成システム、そしてピッチ上で見られる近年の輝かしいプレーは、世界中からラ・マシアに集められた子どもたちとその親に「バルセロナか無か」の二択を迫り、他の選択肢を奪い取ってしまっているのだ。

 これは既にバルセロナの枠を超えた問題となるが、はたしてフットボールはどこへ向かおうとしているのだろうか? アフリカやアジア、南米の親たちが自分たちの子どもをフットボール選手にすべく、既存の生活環境を捨てて外国へ移住したり、まだ幼い少年を1人外国へと送り出したりする。そこまで彼らを駆り立てるものとは一体何なのだろうか?

 こうした議論が示すこと。それはつまり、既にフットボールが子どもたちのボール遊びではなくなってしまった、という悲しい事実である。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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