一時代の終焉を迎えるミランとインテル ミラノの名門2クラブ今季不振の背景

片野道郎

ライフサイクルの過渡期を迎えた2チーム

早々にCL出場争いから脱落したインテルとミラン。ミラノの2チームがともにCLに出場しないのは13年ぶりとなる 【Getty Images】

 ACミランとFCインテルナツィオナーレ(インテル)。ユベントスと並んで「ビッグ3」と称され、セリエAの看板を背負ってきたミラノの名門クラブが、そろって深刻な不振に苦しんでいる。今シーズンのセリエAでは、スクデット(リーグ優勝)争いどころか、来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いからも早々に脱落。来シーズンは2001−02以来、13年ぶりにミラン、インテルともCLに不出場という不名誉な事態になることが確実だ。

 問題は、ミラン、インテルのいずれにとっても、これが単なる一過性の不振ではないというところ。どちらも15年、20年単位の大きな時代が終わりを迎えており、クラブとしてのライフサイクルそのものがひとつの過渡期にさしかかっている。その過渡期を乗り越えて、今後もこれまでと同じレベルの国際競争力を維持していこうとするならば、チームの強化をうんぬんする以前に、まずはクラブとしての経営体制を抜本的に再構築しなければならないというのが現在の状況だ。

 ピッチ上の不振の背後には、もっと大きなクラブ経営上の課題が横たわっている。

 ミランもインテルも、ベルルスコーニ、モラッティというオーナー家(いずれもイタリアでトップ10に入る大富豪である)が私財を投じて赤字を穴埋めするという「パトロン型経営」によってチームの競争力を保ってきた。しかし、UEFA(欧州サッカー連盟)が導入したファイナンシャルフェアプレー(FFP)規程によって、11−12シーズン以降、オーナーによる赤字補填は原則として禁止となっている。従って、慢性的な赤字経営体質を改善して収支を均衡させながら、ピッチ上の競争力を保っていかなければならないのだが、ミラン、インテルともに、現状ではまだそれに見合った経営体制が確立されていないのだ。

モラッティ家の「道楽」が支えていたインテルの経営

インテルの新会長となったインドネシア人実業家のエリック・トヒル氏 【Getty Images】

 インテルは昨年11月、1995年以来18年間にわたってオーナー会長の座にあったマッシモ・モラッティが、インドネシア人実業家エリック・トヒルにクラブの経営権を売却した。

 インテルを溺愛してきたモラッティは、在任18年間で総計12億ユーロ(約1700億円)にも上る私財をクラブに投下してきた。毎年のようにスター選手を獲得し、高額の年俸を支払って、年間数千万ユーロ(数10億円)単位の赤字を積み上げ、それを自らの財布で穴埋めしてきた結果である。

 モラッティ家の本業は、日本円にして年間1兆円規模の売上高を誇る石油精製会社。しかし、10年代に入って減収減益の赤字決算が続き、株式の一部をロシアの国営石油会社ロスネフチに売却するなど経営難に直面している。UEFAのFFP規程がなかったとしても、毎年数千万ユーロものカネをインテルという「道楽」に投じることはどのみち不可能になっていたのだ。

 インテルの発行済株式の70%をトヒルに譲渡して得た売却益はおよそ2億5000万ユーロ(約350億円)。しかしそのほとんどはインテルが積み上げた銀行からの負債返却で消えたというから、もし買い手がつかなければモラッティ自身が破産していたかもしれなかった。

チーム経営再建のカギはアジア市場の開拓

 インテルの低迷は、10年にCL優勝を含む三冠をもたらしたサミュエル・エトー、ヴェスレイ・スナイデル、マイコンらがチームを去るに連れて深刻さを増してきた。カネの力でスター選手を買い集めることで成り立っていた繁栄が、オーナーの金脈が尽きるとともに下り坂に向かったのは、しごく当然の結末だったともいえる。

 新会長のトヒルは、インドネシアで新聞・雑誌、TV・ラジオ局、広告代理店、ウェブサイトなどを擁するメディア企業「マハカ・グループ」を所有する43歳の実業家。米国で経営学を学び、11年にNBAのフィラデルフィア76ers、12年にはMLSのDCユナイテッドの共同オーナーとなるなど(前者は昨年売却)、近年スポーツビジネス分野にも参入を図っており、インテルはヨーロッパにおけるコア事業という位置づけになる。

「今シーズンは過渡期。新しいプロジェクトは来シーズンからスタートする。トップレベルに戻るまでには2、3年はかかるだろう」というのがそのコメント。チームレベルでは、主力クラスの世代交代によって若返りを図り人件費を抑制、鍵となるポジションには即戦力を補強しつつ、育成部門からの若手抜てきと国内外のタレント発掘によって、継続性を持った戦力強化を図っていくという方向性が打ち出されている。収入拡大については、人口約2.5億人のインドネシアをはじめとするアジア市場の開拓が切り札になるだろう。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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