なぜ乾貴士は出場機会を失ったのか? 高かったピッチ外にそびえる“言語の壁”

残留争いをするチームの蚊帳の外

昨季序盤はチームの成功の象徴として活躍していた乾貴士だが、今季は残留争いの中“蚊帳の外”に立たされている 【Getty Images】

 ビッグクラブが居並ぶ中で、アイントラハト・フランクフルトは自らの立場を築いてきた。伝統あるクラブはドルトムントやシャルケに敢然(かんぜん)と戦いを挑み、乾貴士という創造性あふれる選手を擁してブンデスリーガを驚かせてきた。だが、そんな物語も長続きはしなかった。鷲をマスコットとするクラブにおいて、現在のストーリーはまったく異なったものとなっている。

 2012−13シーズンの序盤、乾は昇格チームが見せるセンセーショナルな成功譚(たん)の顔とも言える存在だった。そのパフォーマンスは過去の偉大なアーティストたちを思い起こさせ、ジェイ=ジェイ・オコチャらが残した攻撃の天才の足跡につながるものだった。乾はリーグ戦で6得点8アシストという成績を残し、アルミン・フェー監督率いるチームを、驚きのヨーロッパリーグ出場圏内へとけん引したのだ。

 だが今日、チームが直面する現実は降格という危機との苦闘である。アイントラハトにおいて、乾はほとんど自分の役割を果たせていない。情熱はもちろんのこと、肉体と精神の強靭(きょうじん)さが求められる残留争いというバトルにおいて、25歳の日本人は蚊帳(かや)の外となっている。フェー監督が他の選手でチームを構成するようになってしばらくたつが、乾のプレーが輝きを放つことはなく、また安定感も欠いている。その姿は、この状況をほぼ受け入れているかのように見える。このMFからは、自分がどういう状況にあるのか理解しているかがうかがえないのだ。

日々の姿勢に現地記者から厳しい声

 なぜ乾はベンチウォーマーという役割を受け入れ、それに満足しているかのように映るのだろうか。その理由は明白である。「全般的に、乾は1部リーグのスピードについていくことに問題を抱えている」。地元紙『フランクフルター・ラントシャウ』のシュテファン・クリーガー記者はそう語る。

 確かに乾は本当に素晴らしい技術を備えているが、前線での動きの中で「いつも信じられないようなボールの失い方をする」とクリーガー記者は指摘する。そうしてフランクフルトはこれまでにも、「乾がボールを失った地点から、何度か見事なカウンターを食らって」(クリーガー記者)ゴールを献上してきたというわけだ。

「乾にはブンデスリーガでプレーするだけの能力がある」と語るのは、『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥンク』のラルフ・バイトブレヒト記者だ。確かに昨シーズンは、その能力があることを示してきた。乾のポジションは中央から左サイドに変わったが、それだけがパフォーマンス低下の理由とされるべきではないだろう。

 やる気のない様子は、ピッチ外でも見て取れる。それこそが乾の危機の最も深刻な理由であろう。「彼はとにかくドイツ語を学びたくないようで、それを気にもしない」とバイトブレヒト記者は指摘する。乾は「ソリスト(独奏者)のような状態」だという。ゲーテ・インスティテュート(ドイツの国際文化交流機関)へドイツ語を学びに行っていたが、おしゃべりをしていただけのようだ。「彼は自らに苦行を強いることがないんだ。ピッチ上でも、フィールド外でもね」

 テレビ局の『スカイスポーツニュースHD』のためにフランクフルトを追っているアレックス・ボーネンゲルも、そのことは承知している。乾のことは日々の練習でも見ているのだ。乾は、チームになじむための何かをほとんどしない。「乾は確かに練習グラウンドに立っているけれど、チームの一部ではないことは明らかだ」とまで言い切る。

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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