田中将のストレート、ダル3年目の再挑戦 2大エースの2014 吉井理人氏が分析

構成:スポーツナビ

今年“も”活躍できるダルビッシュ

今季のダルビッシュは、「明らかにサイ・ヤング賞を意識している」と吉井氏。ファストボール系の動くボールを増やす取り組みをしているという 【Getty Images】

――一方で、ダルビッシュ投手ですが、今年はかなりやるぞ、という高い評価が現地ではかなり多く見られるようですね。

 今年“は”ではなくて、今年“も”でしょう(笑)。

――あ! そうですね、失礼しました。言葉を間違えました。今年“も”ですね(笑)。米国ではサイ・ヤング賞候補に早くも上がっているという報道もあるようです。吉井さんから見て、ダルビッシュ投手の3年目にはどのような期待をお持ちでしょうか?

 サイ・ヤング賞を狙ってほしいと思いますね。

――去年は本当に出だしが良くて、どこまで勝つんだろうというペースで勝ち続けていました。ただ、後半戦に入ると打線とうまく噛み合わず、1年目の勝ち星を下回ってしまいました。それでも、防御率は2.83という立派な数字でした。

 この防御率は素晴らしいですね。勝ち星に関しては、去年はもう仕方ないです。あれだけチームが打ってくれなかったら、やっぱり気持ちも萎えてくるんで、頑張ろうと思ってもパフォーマンスが少し落ちるのは仕方ないですね。だから、ダルの調子が悪かったという感じはしなかったです。

――そうですね、本当に崩れて打ち込まれたという試合はほとんどなかったですね。

 打たれた試合も、自分が我慢しきれずに打たれているという感じでしたから。

――その前にチームが1点でも2点でも取っていたら、全然状況が変わっていたでしょうね。

 シーズンの最後の方は、ゲームの流れがめちゃめちゃ悪かったですね。

――やはりピッチャーの立場からすると、これはもう仕方ないと思うしかないんでしょうか?

 まあ、そこで頑張らなアカンのですけど、結構キツイですよね。

――そういう試合が1試合、2試合ならまだ我慢できても……

 そうなんですよね、ダルビッシュの場合はそういう試合がずーっと続きましたからね。

サイ・ヤング賞を意識した取り組み

――吉井さんからご覧になって、今年のダルビッシュ投手に何か変化は感じられましたか?

 変わった点と言いますか、1年目のダルはたぶん球数を減らしてイニングを稼ごうと思って、球を動かすピッチングをやり始めたんです。それのおかげでフォームを崩したんですよ。それで、途中でまずは自分のフォームを取り戻そうということで、日本で投げているようなスタイルに変えて、それで去年のダルビッシュは元のダルビッシュに戻ったような感じがあったんですよね。その上、今年はまた新たに球数を減らしてイニング数を増やすチャレンジをしているんですよ。これはもう明らかにサイ・ヤング賞を意識した取り組みだと思います(笑)。220〜230イニングは投げないと、サイ・ヤング賞は獲得できないと思いますから。去年は209イニング投げているので、あと15〜20イニング増やそうと思ったら、球数を減らすのが手っ取り早いですよね。1回失敗した取り組みをもう1回やっているんですけど、今回は大丈夫だと思います。フォームを乱したりはしないと思います。

――昨年、ダルビッシュの球数の多さが話題になったときもありましたが、それが今年はなくなる可能性が高いということですね。

 はい。そしてファストボール系の動くボールですね。ツーシームとカッター。去年もカッターは結構投げていたと思うのですが、それをより良くしようという、これはいい試みだと思いますね。日本でもこの試みをやったことがあるんですよ。球数が増えるからツーシームをちょっと多くしようと言ったら、そのツーシームがすごすぎて余計に球数が増えたんですよね、球が前に飛ばないから(笑)。


――なるほど(笑)。ボールにバットを当てることができても、まともに前に飛ばないんですね。粘られているわけではないのに、結果的に粘られているようになってしまう。

 そうなんですよ。でもメジャーはパワーヒッターが多いし、より積極的に来るので球が前に飛ぶんですよね。だから、ツーシーム、カッターは有効になると思うのですが、1年目はそれのおかげでフォームを崩して、全部バラバラになっちゃったんです。でも今回は、1回失敗している分、自分でそれが分かっているので、より強い、すごいツーシーム、カッターを投げてくると思いますよ。ただ、その分、三振の数は減るかもしれないですね。

――ということは、今年のダルビッシュ投手は相当期待できそうですね。

 勝ち星の面でも、打つ方もレンジャーズは補強しましたからね。プリンス・フィルダーに、韓国の秋信守。

――去年、正捕手だったピアジンスキーが移籍してしまいましたが、その影響はどうでしょうか?

 ただ、ダルビッシュの場合はもう一人のキャッチャー、ソトとよくバッテリーを組んでいたので、大きな影響はないでしょうね。

ヤンキースの補強はちょっと足りない?

――日本時代から可愛がっていた田中投手にばかり大きな注目が集まっているので、ダルビッシュ投手は「オレの方がやるぞ!」とかなり燃えているのかなと想像してしまうんですが、実際のダルビッシュ投手本人はどうなんでしょうか?

 まあ、そう思っているでしょうけど、本人は言わないでしょうね(笑)。『結果見とけ!』みたいな感じなんじゃないでしょうか(笑)。それに同じアメリカン・リーグですからね。東地区と西地区の違いはありますが。

――そうですよね、ヤンキースとレンジャーズ、対戦カードはそんなに多くないとは思いますが、うまいめぐり合わせで先発対決があればかなり盛り上がると思いますし、ポストシーズンで対決が実現となれば最高ですね。

 そうですね、そういう舞台で争う場面が出てほしいですね。ただ、チームとしてはレンジャーズの方が強いような気がしますね。

――それでもヤンキースは今季、まずはリーグ優勝が至上命題のようになっていますから補強をかなり頑張ってきた印象があります。

 はい。これはメジャーリーグ評論家の福島良一さんがおっしゃっていたことなのですが、CC・サバシアを取ってきたときも絶対にシーズン優勝しなきゃいけない年だったらしいんです。で、サバシアが大活躍して、そのシーズンはワールドチャンピオンになったんですよね。そのシーズンと今年が似ているので、マー君にかかる期待はかなり大きいんじゃないか、って福島さんが言っていましたけど、でも、GMの話しぶりではチームはそういう期待で取ってきた感じではなかったですけどね(笑)。長い目でエースになってくれよ、というそんな感じでしたので。そう思うと、ヤンキースは戦力補強がちょっと足りないと思いますよ。ピッチャー陣がちょっと弱いですね。

――リベラが引退して、絶対的な守護神もいなくなりました。

 先発ではサバシアも黒田もそこまで活躍しないんじゃないかなぁ。いや、黒田は頑張るかな。サバシアがちょっと心配ですね。

――そうなると、ますます田中投手にかかる期待が大きくなりそうです。そして、こんなことは考えたくありませんが、もし田中投手の調子が悪くて勝ち星を挙げられなかった場合、ニューヨークのバッシングがすごそうです……。

 まあ、でも、行儀よくメディアに応えていたら、そんなにめちゃくちゃ敵対視されることはないと思いますけどね。

――救世主になる可能性もあるということですよね。

 はい、もちろんあります。

――今年は日本でも春からMLBが大きく盛り上がりそうで、すごく楽しみですね。

 マー君にダルビッシュ、2人とも期待できますから、今年は相当面白いですし、楽しめると思いますよ。

<了>

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