急成長する17歳、失敗を糧に次こそ パラリン初挑戦の村岡桃佳

荒木美晴/MA SPORTS

難コースを無事滑り終えるも、無念の失格

難コースを滑りきった村岡だが、ゴール後、旗門を通過していなかったため失格に。初めてのパラリンピックはほろ苦いスタートとなった 【吉村もと/MA SPORTS】

 10日に行われたソチパラリンピック・アルペンスキー女子スーパー大回転。レースを終えた村岡桃佳(埼玉・正智深谷高)は、浮かない表情で報道陣の前に姿を見せた。

 攻略が難しいといわれるソチのコース。さらに、この日は快晴で気温が上がって雪上が荒れ、転倒する選手が続出した。レースが10分以上に渡って中断する事態が2度も起こった。そんな中、シッティング(座位)カテゴリーの最終滑走者として登場した村岡は、慎重な滑りでスピードを失ったものの、ゴールラインを駆け抜けた。

 ところが、である。無事に滑り終えてホッとしたのもつかの間、村岡が耳にしたのは「失格」という言葉。難関の急斜面をクリアした直後の旗門を通過していなかったと説明された。「ショックでした。滑りきることに必死で、気付かなかった」と肩を落とした村岡。「でも、(16日の)大回転でも同じコースを滑るので、そこにはつなげられたと思います。いい経験になりました」。初めてのパラリンピックで起こしてしまった予想外の出来事を受け入れ、次に向けて顔を上げた。

 大会前、5度のパラリンピックに出場して金メダル2個を含む合計10個のメダルを獲得し、現在は第一線を退いている大日方邦子は、同じ女子座位の後輩となる村岡についてこう語っていた。「(競技歴が浅い)桃佳は、今スポンジのように吸収している時期。ほんの数カ月間でも格段に良くなると思う」。その言葉の通り、この日のような経験こそが、成長の糧となるはずだ。

先輩スキーヤーの指導で頭角を現す

レース後、村岡は応援に駆けつけた森井(右)ら先輩と言葉を交わした。緊張から解放され、笑顔を見せた 【写真は共同】

 今月3日に17歳になったばかり。4歳の時に横断性脊髄炎を患い、下半身に麻痺が残った。幼いころから車椅子陸上などいろいろなスポーツに親しみ、父親の秀樹さんとよくスキー場に通った。上達するにつれて、スピードとスリルを体感。中学3年生で本格的にアルペンスキーを行うようになった。

 小学校低学年のころから彼女を知る、日本障害者アルペンスキーチームの野島弘ジュニアナショナルチームチーフコーチによると、村岡は障害のため背筋のバランスが悪い。だが、厳しい指導に対しても決して弱音を吐かず、「できない」と漏らしたことはなかったという。自他ともに認める「負けず嫌い」の性格が、アスリートの素地を作っていった。
 約1年前からは、日本代表チームの一員として合宿に参加。世界のトップで活躍する先輩たちから直接指導を受けられたことも、村岡の急成長につながった。例えば、今大会の滑降とスーパー大回転で金メダルを獲得した男子座位の狩野亮(マルハン)をはじめ、森井大輝(富士通セミコンダクター)、鈴木猛史(駿河台大学職員)といったそうそうたるメンバーから、滑り方の基礎からコースの攻略法、精神面の調整方法、チェアスキーの扱い方に至るまで、親身に教わった。

 大会に出場するようになると、練習の成果を発揮できない“経験の浅さ”を痛感することもあったが、しかし「転んだ数だけうまくなると信じて」、コースに出続けた。そして、昨年12月の国際大会「ノルアムカップ」のスーパー大回転で銅メダルを獲得。今年1月のワールドカップ大回転では初優勝を飾るまでに実力をつけた。その結果に、狩野や鈴木らが自分のことのように喜んでくれたことがうれしかったと、村岡は振り返る。

 10日のスーパー大回転は、村岡にとってパラリンピックの初戦だった。レース後、観客席で声援を送っていた狩野ら先輩たちが取材ブースに降りてきて村岡に声をかける場面があった。言葉を交わした村岡の顔からは緊張が解け、ほっとしたような笑顔を見せていたのが印象的だった。

 大会後半には、回転と大回転にエントリー。「きっちり修正して臨みたい」。初戦の悔しさをパワーに変え、結果を残す先輩たちのように納得いくパフォーマンスを追求するつもりだ。

<了>
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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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