「FW遠藤」不発も守備には及第点 攻撃に課題見えた長谷川ガンバの開幕戦

下薗昌記

敗戦にも目指す方向性をのぞかせる

2年ぶりのJ1開幕戦はホームで浦和に惜敗。しかし、選手たちは昨年から積み上げてきたスタイルに確かな手応えを感じている 【写真は共同】

 破天荒な攻撃サッカーを長年掲げてきたガンバ大阪が2年ぶりにJ1のステージに帰ってきた。

 1日に行われた開幕戦、ホームで迎え撃った相手は、近年数多くの名勝負を繰り広げてきた好敵手・浦和レッズ。「開幕戦としては最高の相手」と長谷川健太監督が言えば、大黒柱のMF遠藤保仁は「自然と注目されるカードになるのが浦和戦」と話す。指揮官と選手たちは自ずと、モチベーションを高めていた。

 カテゴリーこそ異なれど、昨年はともにボール支配率がリーグナンバーワンで、得点数もそれぞれリーグ最多。攻撃的なスタイルを持ち味にする両者の激突は、セットプレーを手堅くものにした浦和が最少得点差で勝ち点3をもぎ取った。

 2008年以降、万博競技場での浦和戦は常に1点差で勝敗が決してきただけに、0−1という拮抗(きっこう)したスコアは決して珍しくない。しかし、その戦いぶりには長谷川ガンバが目指す方向性が確かに顔をのぞかせていた。

「強引に打ち勝つ」のではなく「手堅く勝ち切る」

「ガンバは攻撃が特長のチームなので、それを変えるつもりはないが、2年前に降格した原因は失点数の多さにあった。それだけにいかに攻守でバランスの取れたサッカーができるかどうか」

 自身にとって清水エスパルスを率いた10年以来となるJ1開幕を控えた長谷川監督は、昨年以降チームに植え付けてきた哲学をこう口にした。

「非常識」なまでの攻撃性を貫く反面で、守備面においては約束事という「常識」を持ち合わせないチームが12年までのガンバ大阪だ。最多得点を奪いながらの降格劇は、いかに監督交代の失敗という出遅れがあったにせよ、アクセルを踏み続けるだけのスタイルに限界があったことを物語っていた。

 昨シーズンもJ2最多の99得点を奪い、シーズン途中に期限付き移籍から復帰したFW宇佐美貴史が18試合で19得点をたたき出したインパクトだけが強調されがちだが、長谷川監督が作り上げてきたのは「強引に打ち勝つ」スタイルでなく「手堅く勝ち切る」戦闘集団だ。

 MF今野泰幸も指揮官が目指す方向性に同調する。「攻撃的に行くというよりは、攻撃も守備もバランス良くやりたいし、相手の時間帯になればしっかりブロックを作って我慢する。逆に僕らの時間帯になれば、アクションを起こして攻撃にいきたい」。攻撃に殉じたかつての破天荒(はてんこう)なスタイルは、もはや過去のもの。かつてなかった「ブレーキ」もしっかりとチームに標準装備されている。

積み上げてきた守備組織に確かな手応え

 そんな方向性の一端を、浦和戦から紹介したい。

 基本的には前線が高い位置からボールを奪いにかかるものの、やみくもにプレスを繰り出すのではなく、浦和のボール支配に対して、きっちりと守備ブロックを構築。攻撃時には5トップ気味になり、前線に人数をかける浦和に粘り強く、組織的に対抗した。

 かつてのガンバ大阪ならば、シュート数を相手の半分以下に抑えられ、決定機が皆無の展開には露骨に危機感を示しただろう。

 ただ、かつての宿敵に敗れた選手たちは一様に、昨年以降積み上げてきたスタイルへの確かな手応えを口にした。上っ面の言葉でなく、自チームに対しても是々非々の姿勢を崩さない。主力2人の見解はこうだ。

「見ている人には面白くないゲームだったかもしれないが、守備の選手としては集中しながら、バランス良く守れていたし、最後で体を張れていた」(DF岩下敬輔)

「2点目をやられていたら、より敗戦濃厚の展開になっていたし、しっかりと守備陣は我慢できたのは収穫」(今野)

 J2で通じたサッカーが、途端に通用しなくなる。J1のアタッカー陣はJ2に比べて、「警戒していて、分かっていてもやられてしまう」(長谷川監督)ものだ。しかし、DF丹羽大輝や、MF内田達也ら個の力の耐久力はまだ未知数ではあるものの、積み上げてきた守備組織にこの先、大崩れはなさそうだ。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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