「FW遠藤」不発も守備には及第点 攻撃に課題見えた長谷川ガンバの開幕戦

下薗昌記

課題を残した自慢の攻撃陣

指揮官に求められるのは遠藤(写真)の起用法だ。浦和戦もボランチにポジションを移してから、チームの流れが良くなった 【写真は共同】

 一方で、長らく表看板に掲げてきた攻撃陣は課題を露呈した。7本のシュート数のうち、枠をとらえたのは後半から投入されたMF大森晃太郎が開始直後に放った一本のみ。決定機らしいチャンスはなく、浦和にたやすく完封を許した。試合後の記者会見では、必ずしも本音をさらけ出すばかりではない指揮官が思わず漏らしたのは「攻撃は本当にちょっと、寂しい」という言葉だった。

 しかしながら、1節を終えた段階で「黄色信号」がともったと指摘するのは、あまりにも拙速だ。

 今季、「(宇佐美)貴史には得点面で期待している」(長谷川監督)とエースに名指ししていた背番号39は開幕を目前にした2月19日の練習中に左腓骨(ひこつ)筋腱(けん)脱臼で全治8週間。始動直後から、層の薄さを指摘されていたFW陣は、絶対的な軸を失って、急きょ突貫作業を強いられた。

 FW佐藤晃大と遠藤が前線で共存する布陣は、開幕一週間前のプレシーズンマッチJ2・京都サンガ戦でも試すことができず、ぶっつけ本番で浦和戦に挑んだものの、機能性の低さは明らかだった。

 無理もない。パートナーに機動力のあるフィニッシャーを必要とする「つぶれ役」の佐藤に対して、昨季終盤から用いている「FW遠藤」はあくまでも宇佐美にシュート意識を高めさせるためのいわば奇策。MF二川孝広を2列目に配置するならば、なおのこと前線にはDFラインの裏に抜け出せるアタッカーの配置が不可欠だった。

「ボールが来なくても、焦れずに前線で仕事をしたいし、状況次第で下がって組み立てにも絡みたい」と話していた遠藤は、前線で孤立。一方で後半29分に内田に代わってボランチに下がった時間帯以降は、チームも本来のボール回しを見せ始めた。

必要なのは「ボランチ遠藤」

 今、指揮官に求められるのは「FW遠藤」の処遇である。「(遠藤の起用は)考えます」と言葉を濁した長谷川監督ではあるが、浦和戦の後半に投入されたFWリンスは、前半の前線になかったDFライン裏への飛び出しなど今後への可能性をにじませた。

「ビルドアップなり、ボランチの位置からいいパスをどんどん出せば、前も生きる」という遠藤の言葉は実に示唆に富む。ただでさえ宇佐美という抜群の個の力を持つエースを欠いた今、それぞれに一長一短なアタッカーの良さを引き出し得るのは「ボランチ遠藤」だ。

「開幕戦は今後を戦う上での物差しになるので、何ができて、何ができなかったかを見極める必要がある」(長谷川監督)。積み上げてきた守備組織の手応えと、不発だった「FW遠藤」に指揮官は何を思うのか――。特定の戦術や選手に固執せず、昨年は柔軟な選手起用を見せてきた指揮官の手腕が、2節以降に試されることになる。

<了>

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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