バルサを襲った『不慮のダイナミズム』 指揮官マルティーノが再びかみしめる格言

国王杯決勝進出、CLではシティを撃破。だが…

一時は契約延長オファーのうわさもあったマルティーノだが……。その未来は誰にもわからない 【Getty Images】

 8月のスーペルコパではアトレティコとの接戦を制し、今季1冠目を獲得。スペイン国王杯では苦しみながらもレアル・ソシエダを下し、メスタージャで行われる決勝でレアル・マドリーと対戦する権利を手に入れた。リーガでは多少勢いが落ちてきたものの、アトレティコ・マドリー、レアル・マドリーと三つ巴の首位争いを続けている。

 それでは、CLはどうか。現在のバルセロナは優勝候補の一角に値するレベルにあるのか、それとも7シーズンぶりに4強入りを果たせず大会を去ることになるのか。

 果たしてバルセロナは、最も恐れていた選手の1人であるアグエロの不在に加え、デミチェリスの退場とPKによる先制点をもたらす微妙な判定の恩恵まで受け、恐らく今季最も手堅い試合を全うした末に、アウェーのエティハド・スタジアムでマンチェスター・シティを2−0で破った。

 先週半ばに行われたこの試合を終えた時点で、マルティーノは全てが自身の望み通りに進んでいると感じていたことだろう。スーペルコパを勝ち取り、国王杯は決勝に進出し、リーガでは首位タイを保ち、CLでも準々決勝進出をほぼ決めた。さらには、ほどなくジョセップ・マリア・バルトメウ会長がマルティーノに契約延長をオファーする意思まで口にしたくらいだ。

失敗に終わったマルティーノの賭け

 しかし、その幸福も長くは続かなかった。週末のリーグ戦でレアル・マドリーがエルチェを3−0と一蹴した翌日。それまで全てがうまくいっていたこともあり、マルティーノは勝たなければ首位の座を保てないレアル・ソシエダとのアウェー戦でDFラインを3人入れ替え、ケガ明けのネイマールを先発起用し、ソングをピボーテ(セントラルMF)、ブスケッツをインサイドMFに配置する過剰なローテーションを行う賭けに出る。

 その結果、チームはラウールのリーガ通算ゴール数を上回ったメッシのゴールで一度は同点に追いついたものの、10日前に国王杯準決勝で対戦した際と同じく内容で圧倒された末、それでも引き分けで終えた前回とは裏腹にスコアでも完敗することになった。

 3失点を喫し、さらにゴールポストを直撃するシュートまで打たれ、ほかにも危険な状況を何度も作られたこの試合において、バルセロナは一時もゲームをコントロールすることができなかった。普段は温厚なマルティーノもレアル・ソシエダのスタッフと口論を交わした末に退席処分となった上、試合後の会見では自身のゲームプランが間違いであったことを公に認めざるを得なかった。

 成功者としてたたえられたマンチェスター・シティ戦からわずか数日、全く予期せぬ形でその敗戦は訪れた。まさにマルティーノは数十年前にパンセリが主張した『不慮のダイナミズム』の存在を、いま一度身をもって証明したのである。

 とはいえ、バルセロナのフットボールが徐々に輝きを失いつつあることは確かだ。まだわれわれを魅了した当時の輝かしいプレーが断片的に見られるものの、その機会は着実に減ってきている。バルセロナが過ごすこの奇妙な過渡期は、果たしていつまで続くのか。それを知るには、然るべき月日が流れるのを待つしかない。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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