スポーツとボランティアの関わり方=その多様性と楽しみ方を知る

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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

ボランティアのモチベーションを上げるには?

第2部ではフォーラム参加者からの質問に答える二宮氏 【スポーツナビ】

 休憩を挟んだ後、第2部ではフォーラム参加者の質問に二宮氏が答えた。質疑応答の内容は以下の通り。

――スポーツボランティアでゲームやランナーを見ることができなくなりますが、その場合のモチベーションアップはどのようにしていますか?という質問です。

二宮氏「荷物係とか事前受付とかのボランティア活動をされる方は、当日にあまりゲームなどに関わりがないと思います。また、ソチオリンピックでもあったと思いますが、オリンピックが始まると同時に終了するボランティアもあります。そういった方々のモチベーションをどう上げるのか? それは難しい問題だと思うのですが、まず認識をどこに置くのかということが1つあります。と言うのは、みんなの力がないと大会やイベントは出来上がらないんです。それは選手が見える、見えないはあると思うんですが、その人がもしいなかったら大会は成立しないくらいに思っていいと思うんです。代替がきかないのがボランティアのいいところじゃないかなと思います。つまり、それはアルバイトじゃない。ちゃんとした思いの強い人たちが、自分たちの思いによって、しっかりとした役割の中で活動している。つまり、最終形をそのイベント・大会のゴールに設定していただいて、そこにコミットするということがまず1つ。
 もう1つは、そういう見えない方々に対する参加者、あるいは周りの人たちの感謝の言葉ですね。つまり、分かりやすいボランティアの方たちだけに“ありがとうございました”というメッセージを発信するのではなくて、裏で見えない活動をしてくれた方々にも感謝の意をこめていけるかということが、モチベーションを上げていけるかの大きなポイントだと思います。つまり、今の質問の1つの裏側の要素にあるのは、表に出る人だけが認められるのではない。ボランティアというのは周りの問題でもあります。我々がボランティアをどこの段階で認識しているのか。つまり、ボランティアのウエアを着て、当日お水を渡している人だけをボランティアと認識するのか。もうちょっとそれを広い視点で見ることができるのか、という我々の問題でもあると思いますので、そこをお互いに切磋琢磨しながら、視点を上げていくことが大きなポイントではないかなと思います」

――二宮先生が知っている事例の中で、海外の事例で特に興味を強くもたれたものはありますか?という質問です。

二宮氏「もちろん色々とありますが、みなさんご存知のニューヨークのマラソンとか、ロンドンのマラソンとかには、チャリティーというものが歴史的にあって、色々な大会のお金が様々な慈善事業に振り分けられています。そういったタイプの大会が国際的には大きな大会として成立しています。そういうところに参加されるボランティアの方というのは、大会の性格を認識されていることが多いと聞いています。それが1つ印象に残っていることです。
 もう1つは、あまり目立たないような国際大会、例えば民族スポーツの大会(イベント)とかいうのがあったりするんですが、そうすると地元のおじさんたちが丸太を運んできたりするんですね。バスク地方のイベントなどが有名です。さまざまな地方イベントでは、片手にビールが置いてあって、ボランティアなのか単に楽しんでいるのか分からないような形態を見たことがありまして、そういうのは逆にすごいセクションがしっかりしてなくて、形式的ではないですけど、すごく笑顔にあふれていて、いいなぁと思うようなことがありました」

「素直な動機から始めればいい」

スポーツボランティアの第一歩は“素直な動機”にあるという 【スポーツナビ】

――次の質問です。スポーツボランティアの経験がまったくない人がスタートとして、どのようなボランティアから始めればいいでしょうか?

二宮氏「やっぱりご自身が興味のあるところを優先していただきたいなと思います。自分の性格も反映されやすいかなと思います。例えば、チャリティー精神が非常に強くて、この大会を自分が支えたいという思いが強い方が運営に関わるボランティアをされる場合もあります。あるいは、全然そうではなくて、自分自身が走ることが得意だとか、この特技を生かしてボランティアをしたいという方だと、専門的要素が強いボランティアになってくるのかなと思います。まずは自分自身がどこにエネルギーを出せるのか、ぜひ冷静に分析していただきたいなと思います。やっぱりボランティアの原点は自発性です。自発ということは、なんらかの動機がないとできないことです。その動機は素直な動機でいいと思うんです。少し変な言い方かもしれないですけど、やりたくない人はやらなくていいと思います。無理してやるのはボランティア活動ではないと思いますので、本当に素直にどこら辺に興味があるのかなというところを第一にしていただいて、そして、その関連のボランティアで何ができるかを、インターネットでいいと思うので検索していただいて、あるいはボランティアの団体にお問い合わせいただければいいかなと思います」

――では、次の質問です。来月、スポーツボランティア・リーダーの講習を受講します。二宮先生も東京マラソンでリーダーをご経験されたとのことですが、リーダーに必要なスキルや、リーダーとして現場に出るときの心構えなどについてアドバイスをいただけるとうれしいです、よろしくお願いします。ということですが?

二宮氏「これはかつて私も東京マラソンのボランティア・リーダーを養成する講座を何回か登壇させてもらったことがあるんですが、そのときにいつも言っていたのは、自分で背負い込まないということですね。人の上に立つ人が自分で背負い込んじゃうと何でもかんでも自分の責任になってしまうので、ついつい指示を自分から出して、自分が統制しないといけないような形になってしまうんですが、私がボランティア・リーダーをさせてもらったときに一番感じたことは、まず、特にマラソンでのことですが、自分よりもマラソンのことを詳しい人が多いです。だから、任せた、と。つまり、リーダーの養成講座を受けるから自分はリーダーなんだ、ということではなくて、リーダーよりもすごいリーダーがこの中にいると思ってください。実際にいます、心強い人が。それで、そういう影のリーダーを自分の中で作ってください。そして、うまくその人に“すみません、この辺をお願いできますか?”と言って、リーダーのリーダーを増やしていくと、最終的には全員リーダーになれます。そうすると、みんな自己判断でいい仕事をするようになって、自分は少し遠くからフォローするような形になって、一番いい関係性ができてきます。これが、僕がやってきて一番いい形かなと思います。だから、あんまりリーダーだからということで、あれはこうしてください、これはこうですと言う風にやらなくてもいいかなと思います。
 やっぱりスポーツボランティアって、色んな世代の方、色んな経験を持った方がいますので、時には自分よりも優れているものを持っている方が多いんですよ。その能力をいかに開花させてあげるかというのが、リーダーの仕事で、そのために何が必要かというと、その人たちといっぱい話をすること。探るということ。業務が始まる前までが勝負です。業務が始まる前にたくさんしゃべって、任せられる人に任せていくということが一番重要かなと思います」

「関わりがアイデンティティの形成に大きく影響する」

――ありがとうございます。それではもう1つ。スポーツボランティアは生活や人間性にどのような影響を与えると考えていますか?と言う質問です。また、するスポーツ、見るスポーツとは違う関わり方であるボランティアが、する・見ることによる影響と違う影響を生活や人間性に与えるとしたら、どのような違いがあると考えていますか?

二宮氏「これはたぶん、スポーツボランティアだけではなくて、まずボランティアが人間性にどのような影響を与えるのかというところは、現代社会の中で進行してしまっているので仕方ないところはあるんですけど、阪神淡路大震災、東日本大震災、今回の大雪であったりとか、様々な災害というのは次から次と出てくるんですね。その中でニュースを見ていた人が、どのようにその状況を自分の身体で感じるのか。つまり『こんなことがあったんだ、大変だね』で済むのか、『こんなことがあったんだ、何か自分にできることがないかな』と次の瞬間に心の中にもやもや感みたいなものが生まれているのかどうかというところが、やっぱりボランティア活動みたいなものを自分の生活の中に色々と取り入れてきたかが一番現れてきているんじゃないかなと思います。それはスポーツボランティアだけではなくて、様々なボランティアがそこに影響するのかなという感じがあります。
 そしてもう1つは、地域とかいわゆる自分のアイデンティティを構築との関連です。僕は九州の片田舎生まれですので、ものすごく地域アイデンティティが強いんですが、自分を振り返って、なぜ地域アイデンティティが強くなったのかと言うと、やっぱり地域に関わったからですね。地域に関わると言うのは、お祭りであったり、イベントであったりとか、様々なものに関わってきた。その関わりというのは、これはやっぱりあくまでボランティアなんですね。自分から関わっていくということ。それはもちろん、ボランティアと人間性という関わり方ではないんですけど、やはりボランティアの活動を行ったということが強いわけですね。ですから、スポーツボランティアもしかり、ほかのボランティアでもそうですけど、やはり地域というところと関わったりとか、イベントと関わったりというのは、自分のアイデンティティの形成に大きく影響を与えるのではないかなというところが、人間性の部分と関連するところなのかなと考えています」

あなたにとってラグビーとは?

二宮氏にとってのラグビー、それは「みんなが熱くなれるお祭り的な要素を持っているところ、それが魅力」 【スポーツナビ】

二宮氏「私自身がスポーツと社会の関係性を研究していることもありまして、サッカーとラグビーが分化する前のフットボールというのが、ラグビーにおいても原点なのではないかなと思います。それはやっぱりお祭り的なものであって、多くの人たちが関わりあって、そしてルールもない中で一晩中騒いで、1点決めた勝者を称えるというお祭り的な要素が、そのスポーツの原点じゃないかなと思うんです。もちろん近代化と同時にそれがサッカーとラグビーに分かれてきて、今の形になっているんですけど、やはり私は原点はそこにあるような気がします。観客もそうですし、プレーヤーもそうですし、それからボランティアもそうですし、そういったみんなで楽しめるスポーツ、つまりプレーヤーだけでなく関わっている人すべてが熱くなれる要素を持っているところが、ラグビーのすごい魅力じゃないかなと思います」

協力:(公財)日本ラグビーフットボール協会

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