奈良くるみ、ついに覚醒…次世代担う 158センチの元“天才少女”が初優勝

内田暁

ツアー初優勝はたどり着いた必然の高み

猛暑の中で行われたリオ・オープン決勝、フィジカルを鍛えた奈良は展開力とフットワークを存分に発揮。苦手のクレーで勝利をつかんだ 【Getty Images】

 クレーのコートは球足が遅くなり、土を含んでボールも重くなりやすい。ゆえに、相手のパワーを利用したカウンターを得意とする日本人の多くは、クレーを苦手にする傾向がある。リオ・オープンはそのクレーコートであり、しかも奈良が決勝で対戦したクララ・ザコパロバ(チェコ)はクレーを得意とする選手だった。

 だが、その“相手の土俵”で、奈良は逆に球足の遅さを生かし、コートを広く使う持ち味の展開力とフットワークを存分に発揮する。浅いボールを使って前後に振ってくる相手に対し、そのボールに素早く追いつき、鋭角なクロスを次々に打ち込んでラリーを支配。いきなりの5ゲーム連取に成功し、第1セットを6−1で先取した。

 第2セットでも、奈良は常に先行し試合を優位に進めるが、中盤に差し掛かったあたりで「勝利が近づいてくると、勝ちたい気持ちが増し緊張してしまった」と認めるように硬さが目立ち始める。終盤では相手の開き直ったようなショットも入り、第2セットは4−6で落とした。

 しかしファイナルセットに入ると、再び「優勝のことは考えず、やらなくてはいけないことをしっかりやった」。足を動かし、ドロップショットなども要所で織り交ぜながら、相手に的を絞らせなかった。猛暑の中、2時間を戦ってなお衰えぬフットワークと集中力も、鍛えてきたフィジカルの賜物(たまもの)だろう。この日一番のプレーが、第3セットの5−1からのゲームで飛び出したのは、その象徴だ。相手の絶妙なドロップショットに追いつくと右腕を一閃、ネット際に鋭角なショットを鮮やかに切り返した。優勝をつかんだのも、フォアのリターンウィナー。ボールの行方を見届けるや、奈良はラケットを放り投げ、空を仰ぎ見て両手でガッツポーズを決めた。

「信じられない」。頂点に立った気持ちを聞かれると、彼女は何度もそう繰り返す。だがそこは、不安や疑念を乗り越え、一歩ずつ歩みを進めてきたからこそ至った、必然の高みである。そして、まだまだ長く続く旅の、中継地点でしかないはずだ。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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