帝京大、心からの涙が本気の挑戦へ トヨタに敗戦も「面白くなってきた」

斉藤健仁

奪った2トライに手応え「アタックは通用した」

帝京大・中村(右)は激しいタックルで、グラウンド脇の雪のかたまりまで相手をはじき飛ばす 【写真は共同】

 帝京大も2シーズンほど前から9番や10番の周りにFWの選手を配置する「アタック・シェイプ」を導入しているが、後半は9番の横に立っている選手を機能させる。後半2分には一度、スクラムハーフ流大(3年)からボールをFWの選手にパスをしてから、スタンドオフの松田力也(1年)に展開、松田がラインブレイク。7分には流が、自分の横に立っていたFWとループ(パスをした選手が再びパスをもらうプレー)から、中村にパス。中村は相手のディフェンスにできたギャップを切り裂き、冷静に、大外に走り込んでいたウイング磯田泰成(3年)にロングパスを通し、磯田が左隅に飛び込み8対17と9点差と追い上げた。

 だが、セットプレーが相変わらず劣勢だったことに加え、前に出ようとする意識が強いあまり頭が下がってしまい、タックルで相手を確実に止められない。そうなると組織ディフェンスでほころびを見せ、さらに2トライを許した。それでも、最後まであきらめない帝京大は33分、ゴール前のラックの連続から、相手のディフェンスの間を、松田のパスからフルバック竹田宜純(4年)が切り裂き、2つ目のトライを挙げて一矢を報いた。

 帝京大の2つのトライは完全に社会人のディフェンスを崩して生まれた。1年間、積み上げてきた練習の証しだった。来シーズンの主将に決まった流は「アタックは通用した。この1年間、戦術や戦い方を妥協せずに考えてきた」と胸を張った。それでもセットプレーはもちろんのこと、トップリーグに勝つためには課題は多い。副将のナンバーエイト李聖彰は「ディフェンスで食い込まれてペナルティーをしてしまったところなど細かいところを修正すれば」と冷静に振り返った。

1年生・松田「負けた悔しさから泣いてしまった」

 目標は叶わなかったが、どことなく晴れやかな表情で、岩出監督は記者会見に臨んだ。「正直、面白くなってきました。僕が目標を設定して引っ張るのではなく、(試合に出ている)メンバーだけでなく、選手たち自らが本気になってほしい。そうしたら2〜3年で(トップリーグのチーム)勝てるんじゃないかな。学生スポーツの難しさを超えられるように頑張ります」と、クラブとしての新たな成長に期待を寄せた。

 試合後、円陣の中で学生活最後の試合となった4年生だけでなく、3年生の流が涙を見せ、1年生の松田も嗚咽(おえつ)する。「4年生たちともうラグビーができないという思いと、試合に負けた悔しさから泣いてしまいました」(松田)。心からの涙が、本気の挑戦に変わる。1年後、再び同じ舞台で、さらなる進化を遂げた帝京大の姿が見られるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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