清宮監督、五郎丸が見た「今のワセダ」 ラグビー日本選手権

向風見也

「ワセダのDNAを体現してくれたと思います」

日本代表の早大・藤田は後半22分にトライを奪う活躍を見せた 【写真は共同】

 さて、かつて母校に栄華をもたらした清宮監督は、自らの手で破ったいまの早大をどう見たのだろうか。ノーサイド後の公式会見。「はい。えぇ、勝てましたね」。着席するや一気に語り切るのだった。

「トップリーグの監督になって、ワセダとやるのは2回目。前回はサントリーの監督として、まぁ、ワセダが工夫もなくただ敗れるという試合で。それと同じようにならなきゃいいなと思っていたんですけど、今回はベストパフォーマンスに近いワセダだった。工夫と、粘りがあった試合だったと思います。序盤、ワセダがうまく戦わなかった場面がありましたけど、あのあたりを間違えていなければ、もっと苦しめられたかなと」
 そして言った。「ワセダ、ナイスゲーム」。後藤監督とは同級生の清宮監督は、さらにこうも続けたものだ。

「ワセダのDNAを体現してくれたと思います。格上にどう戦うかというところで、来季にもつながる。いろんなところでヤマハの強みを消す工夫があった。ファイティングスピリッツもありました」

五郎丸「ワセダらしさがあった」

 学生のスピリッツを感じた。その思いは、ヤマハに在籍する早大OBも抱いていた。

 その1人が五郎丸だった。トヨタ自動車を破ったゲームに2年生として出場し、今は日本代表となった27歳は「やりにくい」と振り返り、こう続けたのだった。
「貪欲に戦い続けた。あれは、社会人としても学ぶものがあったと思います。ハングリーなところは伝統として継続されている。下のボールへの反応とか、どんなに大きい相手にも刺さってくるあたりには、ワセダらしさがあった」

 記者の誘導尋問に乗る形ではあるが、実際、母校のことは好きなのだろう。帝京大に5連覇を許している今の早大には、こんなエールを送っていた。
「ここ最近、日本一から遠ざかっている。『荒ぶる』をつかんで、しっかりファンを喜ばせてほしいなと思います」

藤田「シンビンを知らなかった選手がいた」

 もっとも、早大の本質的な部是は「工夫」というより「勝つための工夫」だろう。優勝した時のみに流れる『荒ぶる』を歌うには、あるいはこの日のようなトップリーグ勢に勝つには、どんなプラスアルファが必要なのか。これに答えるのは、現役学生の藤田がベストかもしれない。

「ゴローさん(五郎丸)がシンビンになった時、もっと畳み掛けられた。あの時は継続、継続と言っていたけど、結構、裏(のスペース)が空いていた。ここでキックと良いチェイスができれば……。後で聞いたら、ゴローさんのシンビンを知らなかった選手もいた。僕や順平さん(スタンドオフ小倉)はそう言っていたんですけど、伝わっていなかった。もっと良いコミュニケーションを。プレーは熱く、心は冷静に……」

 肉体強化が大学ラグビーの王道とされているなか、来季の早大は「ひたむきさ」と「頭脳」を前面に押し出せるか。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント