演技を左右する大切なパートナー フィギュアスケートの「靴とブレード」

長谷川仁美

羽生、浅田ら使用のブレード「レヴォリューション」

浅田らが使用するM字型が特徴のブレード「レヴォリューション」。ブレードによってジャンプが跳びやすくなるという 【写真は共同】

 スケート靴のもう1つのパーツが「ブレード」。こちらも、トップ選手たちは欧米メーカーのものを使っているが、メーカーによって、ブレードの底のカーブや、つま先についているギザギザの一番上のトゥ部分の位置や大きさが異なっていて、トゥループやルッツなどが跳びやすいブレードや、履きこなすのは難しいけれどスイートスポットに入ったときにらくらく滑れてしまうブレードなどがある。

「ブレード」と一言でいっても、メーカーや種類が違うだけで感覚が全然変わってしまい、トップ選手でも、簡単には元のように滑れないこともある。さらに、こちらも1セットで7〜9万円程度と決して安いものではない。選手たちにとって、ブレードを変えるのは勇気のいることだ。それでもブレードを変えるのには、理由がある。

 例えば、一昨シーズンから羽生結弦(ANA)が、今シーズンからは浅田真央(中京大)が新しく使うようになったブレードの仕様がある。「レヴォリューション」と呼ばれるものなのだが、ブレードと靴を固定する部分をカーボンファイバーにすることで、軽量化され強度を高めたブレードだ。いくつかのメーカーにこの仕様が見られるが、ここ数シーズン、見るたびに「レヴォリューション」を使っている選手が増えている。横から見たときに、ブレードが大きくM字になっているのがレヴォリューションなので、テレビ越しにも分かるのがなんだかうれしい。

 フィギュアスケートの靴やブレード、衣装などを輸入する会社の代表取締役社長坂田清治さんに伺うと、「『レヴォリューション』は、ブレードが軽くなることで、ジャンプが跳びやすくなるし、けがのリスクも軽減されますね。さらに、これは私の感覚ですが、ジャンプの着氷時に、後ろに倒れようとする力をこらえてくれるように思いますね」

 ブレードによって、ジャンプの転倒が減るのはどんな原理なのだろうか。「ジャンプの着氷は、トゥ(ブレードの前についているギザギザ)に引っ掛けて、まずブレードの前から降りてきて、そのあとブレードの真ん中、後ろと氷に着くことで完了します。このときに、後ろに行く力が強すぎると、転んじゃう。でも、『レヴォリューション』のこのななめ後ろからの支えが、後ろに行く力をぐっと抑えてくれる気がします」とのことだ。

欠かせない“研磨職人”の存在

 靴、ブレードともう1つ、フィギュアスケートに欠かせないのが、ブレードの研磨(シャープニング)だ。フィギュアスケートのブレードは、ひっくり返して氷に接する部分を上にして見てみると、2〜4ミリくらいのU字型の溝があり、その溝の外側と内側の本当に細い部分(エッジ)に乗って滑る。先ほどの坂田社長は、世界屈指のシャープニング(エッジの研磨)職人でもあり、これまでに、浅田真央、キム・ヨナなど数えきれないほどの世界トップスケーターのエッジを研磨してきた。坂田社長によると、「エッジの研ぎ方ひとつで、ジャンプが跳びやすくなったり跳びにくくなったりしますね。選手の演技を見ていて、なんだかあのジャンプの調子が悪いなというときには、エッジのシャープニングが悪いことも多いです。だからたとえばフリップの状態が悪いときにはそれに合わせたシャープニングをするんです」という。

 世界で活躍する選手たちは皆、地味で過酷なトレーニングだけでなく、子供の頃から厳しい状況をも乗り越えて、今の彼らになった。こんな状況をも淡々と受け入れて進んでいく選手たちに、惜しみない拍手を送りたい。

<了>

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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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