「緻密」と「規律」がチームを変える 新生名古屋が醸し出す大いなる可能性

今井雄一朗

絶対的な規律がもたらすチームの一体感

名古屋からのオファーを二つ返事で快諾したと語る西野監督。名門を再び優勝争いへと導けるか 【写真は共同】

 なぜ、名古屋グランパスは西野朗を求めたのか。その理由はチーム始動とともに明らかになった。過去6年、ドラガン・ストイコビッチ監督の下で栄枯盛衰を味わったチームが次のステップに進むために必要なものが、全てそろっていたからだ。キーワードは「規律」と「緻密」。いま、名古屋は名将の手によって、ポジティブな新時代の幕開けを迎えようとしている。

 1月24日。チーム体制を刷新した名古屋が最初の練習を行った。練習開始時刻は9時。午前練習としては特別早い時間帯ではない。しかし、ここ6年を名古屋で過ごしてきた選手たちにとっては、2時間も早い練習開始となる。新指揮官がまず手を付けたのは、規律の整備だった。

「グラウンド内外で質の良いリズムを知ってもらう。練習の時間が前倒しになれば、リズムも変わる。でも特別な時間じゃない。遅刻には厳しいよ。『シャワー浴びて帰っていいよ』と言うかもしれない。文句があるなら個別に聞くよ。規律、ディシプリンは大事だから」

 良くも悪くも選手の自主性に委ねた前任者とは違い、西野監督は徹底してチームの一体感を重視する。規律は絶対で、試合日などの選手の行動も一律だ。試合日の前日はホームゲームであっても必ず前泊し、遠征の際には一度練習場に集まってから全員で行動する予定だ。

 放任主義から管理主義へ。トレーニングも同様で、フィジカルテストの数値を踏まえてプログラムされたフィジカルトレーニングから、新シーズンはスタートした。ある日、全体練習の最後を締めるサーキットトレーニングに数人のベテランたちは参加せず、心拍計をつけてグラウンドを周回する別メニューが課されたことがあった。一見すればベテランは負荷を落としたように見えたのだが、真実は違う。「有酸素の値が足りないメンバー。90分トップパフォーマンスが出せるかどうかで、年齢で区切っているわけではない」(西野監督)。実際にグラウンドの周回数は、とてもではないが負荷を落としたような量ではなかった。その中の一人だった玉田圭司は練習後、疲れた表情ながらも「キツイ。でも、数字はうそをつかないね」と笑った。厳しい練習は特に若手にとっては願ったりかなったり。例えば、始動後数日の練習をインフルエンザ罹患(りかん)で休んだ望月嶺臣は「練習が楽しいです。ものすごくキツイのもあったらしいんですけど、その方がいい。休みたくなかった」と大歓迎の様子だった。西野流のトレーニングは、選手たちに早くも受け入れられている。

二つ返事で快諾「名古屋でやりたかった」

 もう一つのキーワードである「緻密」について考える前に、西野監督就任までの流れをおさらいしておこう。久米一正ゼネラルマネジャー(GM)によれば、西野監督と正式なコンタクトを取ったのは、ストイコビッチ前監督退任の報が出た後のことだったという。昨年4月には名古屋で久米GMがトークショーを行い、その際のゲストとして西野監督との競演は実現していたのだが、ここでは久米GMはあくまで筋を通し、古き友人としての付き合いにとどめたという。しかし、正式オファーからの展開は実に早かった。2012年にヴィッセル神戸の監督の任をシーズン途中にして解かれ、昨年1年間は現場から離れていた西野監督にとって、現場復帰のオファーは何よりも優先されることだった。しかも、意中のチームならなおさらだ。

「まさかと思ってはいたんでね。久米GMから『会おうか』って言われた時には、いつもの友人としての『会おうか』なのかなと思った。そこで正式なオファーをもらったのは意外でした。ただ、二つ返事ではありましたが(笑)。その時にはもう『よろしく』みたいな感じで。自分の中で決めていた部分もあったんです。神戸を退任してからまったく監督のオファーがない中で、名古屋でやりたいなと。柏(レイソル)からガンバ大阪に移る時もそうだったんですが、あそこでやりたいなって思ったチームに自分は行けている。でも、長期間やられている監督さんがいらっしゃったんで無理かなと。でも自分で名古屋での指揮をイメージしていたというのは、うそではないんですよ」

 なぜ、名古屋だったのか。ひとつは強大な戦力を持て余していたチームに、サッカー監督としての心がうずいたからだ。

「どうして常にトップにいないんだろう? あれだけの戦力なのに、と思っていました。それは対戦チームのどの監督も思うことじゃないですか。チーム力がトップレベルなのは間違いない。そこで何で活かしきれないのかなっていうのは、チャンピオンになった2010年から3シーズン、感じていたことです」

 久米GMはこれを聞いて「耳障りの良いことを言うね」と笑ったが、柏やG大阪で個性的なタレントを育てながら実績を築き上げてきた男にとって、完成された選手が多くそろったここ数年の名古屋が魅力的に映ったことは想像に難くない。また今季の新体制発表会の場では「クラブの運営基盤とスタッフの情熱にも魅かれた」と語っている。盟友との12年ぶりのコンビ再結成には久米GMの鼻息も荒い。「フルサポートしていく」という言葉には、並々ならぬ覚悟と熱さが込められていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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