角野友基にとってメダルより大切なもの=ソチ五輪 男子スロープスタイル

スポーツナビ

1本目で84.75点を記録し、決勝をつかみ取る

17歳角野、プロとしての意地を見せた 【Getty Images】

 ソチ冬季五輪、日本選手団の先陣を切った17歳の若者・角野友基(日産X―TRAIL)が、「自分らしさ」を十分に発揮し8位入賞を果たした。

 開会式から一夜明けた8日(現地時間)に行われたスノーボード男子スロープスタイル決勝は、気温マイナス3度ながら、快晴の空の下、絶好のコンディションで行われた。今大会最初の決勝種目ということもあり、多くの観客が会場に足を運び、選手たちの華麗なジャンプパフォーマンスに熱狂した。

 午前に行われた準決勝は、決勝へのわずか4枚の切符を懸けて20選手によって争われた。6日の予選では1組13位と満足のいく結果を出せなかった角野だが、この日は1本目から最高のパフォーマンスを見せる。
 3つのジブエリア(レールのような障害物などが設置されたエリア)は、ミスなく越える。その後に続く3つのジャンプエリアでも、徐々にスピードを上げて3つとも着地でしっかり立ち84.75点。1本目を3位で終えた。

 決勝進出を視野に2本目、「決勝に上がれるかちょっと不安だったので、点数を伸ばせたら良いかな」と判断し、最後のジャンプで角野が持つ最高難易度の技であるバックサイド・トリプルコークに挑戦。しかし着地で右手がついてしまい減点。80.50点にとどまった。1本目の成績を持って、「残りの選手に抜かれないのを、気長に待つだけです」と『決勝進出』という朗報を待った。カナダのマーク・マクモリスが89.25点で角野を上回ったが、最後から2番目に滑ったベルギー選手は84.50点と、0.25点及ばず。角野が決勝への最後の切符を手に入れた。

「両方とも自分らしい滑りはできたかなと思います」と納得の表情の角野。決勝では、ジャンプのエリアで「もっと飛距離と高さを出して飛べたら」と課題を挙げ、2時間後に始まる決勝のスタートを待った。

最後に大技のトリプルコーク!

 12時45分から始まった決勝。6日の予選を突破した8人と、準決勝を突破した4人を合わせた12人による華麗なパフォーマンスが始まる。
 1番目の滑走となった角野は、胸に手を当てて集中力を高める。そして「スポーツマンシップにのっとって、お辞儀に始まりお辞儀で終わる」ための“お辞儀パフォーマンス”を見せると、一気にスタートを切る。

 気持ちが入りすぎたか、1つ目のジブの着地でバランスを崩し手をついてしまうが、その後はミスなく障害物を越えていくと、最後のジャンプでは再びバックサイド・トリプルコークに挑戦。少し尻もちをつくも一気にフィニッシュラインを越えた。しかし、得点は伸びず53.00点。ほかの選手も決勝という舞台にのまれたせいか、得点を伸ばす選手は少なく、1本目終了時点で角野は6位となった。

 そして2本目。1本目でミスしたジブエリアはスムーズにこなし、スピードを上げてジャンプエリアへ。1つ目でキャブトゥエルブを決めると、2つ目のジャンプへ。ここでのフロントテンで手がついてしまい、減点の対象となってしまったが、最後のジャンプではバックサイド・トリプルコークをしっかり決めてゴール。

 得点は2つ目のジャンプでのミスが響き75.75点。この時点で5位となりメダル獲得は逃したが、入賞への期待がかかった。その後に続いた選手も1本目から大きく点を伸ばしたのは数人で、結局、初めての五輪は8位という成績に終わった。

一番の収穫は「自分の滑りができたこと」

「楽しかったです。やっと解放されるという感じです」というのが第一声だった。

 ソチから新種目として始まったスロープスタイルだが、17歳にしてその第一人者として出場した五輪の舞台は、やはり周りからのプレッシャーも大きかったのかもしれない。ただ、五輪で「スノーボードの魅力を伝えたい」と語ってきた角野にとって、準決勝、決勝で見せたパフォーマンスは、「(スノーボードの魅力を)精いっぱい伝えた。あとはそれを(見ている人に)受け取ってもらうだけです」と納得できるものとなった。

 実は角野自身、この決勝を迎えるにあたり、気持ちを傷つけられる出来事があったという。
「雑誌社や新聞社の人が、『スノーボードは遊びだ』とか、どうのこうのと書いていた」と、読んだ記事に悪評があったのだ。それは、小学校2年生の頃から取り組んでいるライフワークを侮辱するものであり、せっかくの五輪の舞台で最高のパフォーマンスを目指そうとしていたところに水を差すような出来事だった。

 それでも滑っている最中は笑顔を崩さず、大会前に言っていた「五輪という舞台をどれだけ精いっぱい楽しめるか。緊張して頑張れないというのが一番駄目なので、楽しんで楽しんで攻める滑りを見せる」という言葉を実行し、今回の滑りを「(満足度は)120パーセントです!」と評価し、最高の笑顔を見せた。

 17歳にしてプロのスノーボーダーである角野にとって、五輪とほかの大会との違いは「あまり変わらないですね」という印象。次の五輪での目標も「特にないです。もし次の機会があるならもっと良い滑りをしたい」と、人生のすべてを懸けるものではない。ただ、「この舞台を経験できたことが良いことじゃないかなと思います。この舞台に立てて、この舞台で自分の滑りができたことは、僕の中ではうれしいです」と、注目の集まる夢舞台で自分らしさを表現できたことこそ、一番の収穫だったと話す。

「(五輪での)メダルは欲しいです」と分かりやすい勲章への欲がないわけではない。ただそれ以上に、「スノーボードの魅力を伝える」ということが、角野にとっては価値のある事柄なのだろう。

<了>

(文・尾柴広紀/スポーツナビ)
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