「新しい仲間」を増やすためにできること=Jリーグスタジアム観戦者調査2013

宇都宮徹壱

推定新規層入場者数が最も増えたクラブとは?

昨年のJリーグスタジアム観戦者調査について発表する筑波大の仲澤眞准教授 【宇都宮徹壱】

 年齢とともに気になるのが新規層(すなわちライト層)の観客をどれだけ呼びこむことができたか──すなわち「新しい仲間」はどれだけ増えたのか、ということである。ここで参考になる項目が「新規層構成比(%)と推定新規層入場者数(人)」。総入場者における新規層のパーセンテージと人数を弾き出したところ、突出していたのが長崎で、それぞれ54.8%と7万1000人となった。これは言うまでもなく、昨シーズンがJ2でのルーキーイヤーだったことと、最後まで上位に食い込んで最終的にJ1昇格プレーオフに進出したことが大きく影響している。

 長崎以外に目を向けると、新規層構成比では北九州の12.9%と岐阜の11.2%、推定新規層入場者数ではC大阪の2万4300人とFC東京の2万2200人という数字が目を引く。C大阪については、先に「女性率が極端に上昇したわけではなさそうだ」と書いたが、性別抜きの新規層については確実に増えている。

 逆に推定新規層入場者数が少なかったのが、J1では磐田(2400人)、湘南(4400人)、新潟(5300人)、J2では横浜FC(3300人)、群馬(3400人)、千葉(4600人)となっている。やはり成績面で低迷したクラブ、あるいはシーズンを通してトピックスが少なかったクラブは、新規層へのアピールでも苦しむのは仕方のないところであろう。

 参考までに、コア層が多いクラブの目安として、「観客の平均観戦歴」についても見てみたい。1位は清水の13.6年、2位が湘南の13.2年、3位が札幌の13.1年。以下、浦和、磐田、横浜FC、千葉と続く。逆に平均観戦歴が短いのは、1位長崎(5.7年)、2位松本(6.8年)、3位岡山(6.9年)。これらのクラブに共通するのは、JFL時代の記憶を持つファンもいる一方で、ライト層が比較的入りやすい雰囲気があることだ。当然ながら、新規層が増えれば増えるほど平均観戦歴は短くなる。

よく誘い合うのは、鳥栖、鳥取、松本

 新規層にとって、初めてのスタジアム観戦はやはりハードルは高い。そこで注目したいのが「スタジアム観戦についての勧誘行動」という項目である。全体で59.0%の観客が「よく誘う」「時々誘う」と回答。また37.5%が「よく誘われる」「時々誘われる」としている。勧誘行動が最も多かったのが大分(4段階評定尺度で2.9)、これに松本、岡山、福岡、鳥栖、仙台、甲府が続く(いずれも2.8)。逆に被勧誘行動については鳥栖が最も多く(2.6)、鳥取(2.5)、甲府、清水、松本(いずれも2.4)という順番となっている。よく誘い合うのは、鳥栖、鳥取、松本というデータもある。

 一方で、新規層がリピーターになるために不可欠なのが、コミュニティの存在。これについても興味深いデータがあった。「ファン・コミュニティの有無とそのタイプ」という項目では、リアルなコミュニティ(スタジアムで集う仲間)、バーチャルなコミュニティ(SNSなどソーシャルメディアで交流する仲間)、リアルとバーチャル両方のコミュニティ、そしてコミュニティなしの4つに分類。Jリーグ全体で見ると、リアルもしくはリアル+バーチャルと回答したのが53.8%であったが、コミュニティなしという回答も43.3%に上った。

 なおクラブ単位で見ると、リアルのみでは甲府の53.0%、リアルとバーチャル両方では大分の35.2%、コミュニティなしでは名古屋の65.5%が、それぞれ最も高い比率を占めていた。これに関連して仲澤氏は「スタジアム内でファン同士のたまり場がないと滞留時間も短くなる。特にJ2クラブはそうしたケアを考えたほうがいい」と、スタジアム内におけるコミュニティの場の重要性を指摘した。

 この他にも「情報入手経路」「SNSの利用率」「同伴者との関係」「単独来場者率」といった項目もあったが、きりがないのでここで区切ることにする。いずれ近いうちにJリーグの公式サイトで公開されるはずなので、興味があれば各自で確認していただきたい。このスタジアム観戦者調査は、各Jリーグクラブが今後の集客アップを考える上での重要なヒントであふれているが、こうしたデータはファンやサポーターにも広く共有されるべきであると個人的には考える。そしてスタジアムでの新しい仲間を増やすためには、クラブの努力だけでなく、ファンやサポーターひとりひとりの協力が不可欠なのは言うまでもあるまい。新シーズンの開幕まで、あと3週間。せっかくの機会なので、Jリーグ未体験の友だちをスタジアム観戦に誘ってみてはいかがだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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