姉&弟のアイスダンス日本代表リード組 ケガ乗り越え、五輪へ「100%集中!」

長谷川仁美

規定があるから面白い「ショートダンス」

全日本選手権のフリーダンスで着用した衣装は母がデザイン 【坂本清】

 二人が滑るアイスダンスは、ショートダンスとフリーダンスの2つの演技で競われる。ペアと違ってジャンプはないが、その分スケーティングと呼ばれるなめらかな滑りや、エッジ遣い(スケートの刃を左右に深く倒したり、前後を使い分けたりする)が重視される。プログラム中に何度かあるリフト(基本は、男性が女性を持ち上げて繰り広げられるもの)はアイスダンスの大きな特徴のひとつで、リフトのエントリー(リフトに入る動き)は、難しく独創的なものの評価が高い。また、ツイズル(片足で何度も回転しながら進んでいくターン)やステップは、スピーディで、二人が近い位置で滑りつつ同じ動きをすることが求められる。スピンでも、多くのポジション(姿勢、形)で安定して回ることが望ましい。

―――2010年のバンクーバー五輪シーズンまではショートとフリーに加えて、コンパルソリーダンス(すべての組が決まった曲で同じステップ、ターンを踏み、同じ軌道でリンクを2周するもの)がありましたね。

クリス「二人とも、コンパルソリーは好きでした」

キャシー「アイスダンスで二人が一緒に滑るということがどういうことなのか、コンパルソリーの練習をすると分かるようになります」

ショートダンスの魅力を語るクリス 【スポーツナビ】

クリス「でも、お客さんからしたら、同じ曲でたくさんのチームが同じ動きをするだけなので、つまらなかったかもしれませんね(笑)。今はショートダンスにパターンダンス(コンパルソリーダンスでのステップ、ターンの規定課題)が入っているんですが、コンパルソリーの時と違ってみんな違う曲で滑っているし、同じダンスを違ったキャラクターで滑ることが面白い。僕たちは2010−2011シーズン、ゴールデンワルツで『アダムス・ファミリー』の曲を選んだんですけど、(コンパルソリーダンスではコミカルなワルツは使われなかったので)すごく新鮮でした」

キャシー「コンパルソリーでやっていたパターン(規定課題)が残りつつ、いろいろなテイストのダンスが見られるショートダンスは、とても面白いですよ。今シーズンのパターンダンスの課題はフィンステップ(アイスダンスの魅力のひとつであるエッジを深く倒した滑りはほとんどない、つま先やブレードで跳ねるステップの多いパターンダンス) です。フィンステップは とても難易度の高いダンスです」

クリス「走ったり跳ねたりする楽しいリズムですね。嫌いじゃないけど難しいです」
キャシー「私は、エッジを深く使えるタンゴ・ロマンチカとかゴールデン・ワルツ(といったパターン)が好き。フィンステップは跳ねていて、アイスダンスって感じじゃないような気がします。来シーズン課題のリズムのパソ・ドプレも好きですね」

クリス「僕はブルースが好きです。テンポがスローで良いですね」
―――アイスダンスでは、男女のロマンスをテーマにしたプログラムを滑る組も多いですが、姉と弟という関係でのアイスダンスは、いかがですか?

キャシー「氷上では姉弟でなく、(プログラム内の)キャラクターになりきっていますし、『ロミオとジュリエット』のようなロマンティックなプログラムは演じないようにしていますね」

―――では、パートナーに恋人がいる時期、「相手の演技が何か変わってきたな」といったことを感じることはありますか?

キャシー「はい、もちろんです(笑)。すごく感じますね。(恋をしていることで)それまで出せなかったいろんな感情を出せるようになってくるし、出てきます。そういうものを演技に持ち込むのも、とても良いことだと思います。(恋人の存在によって)精神面もサポートされますし。練習と恋愛のバランスが難しいこともあるけど、練習を一生懸命やるのであれば、とても良いですね」

クリス「恋人がいる時期でも、相手とうまくいっているときばかりじゃないですよね。そんなときに、その感情をコントロールするのがとても大切。キャシーと僕の場合、キャシーが氷上で元気ないときには(ボーイフレンドと何かあったのだろうと思って)『どうしたの?』って(笑)、ね?」

キャシー「今シーズン、ボーイフレンドはいないから大丈夫よ(笑)」

シングルから二人で転向「すぐにケンカに(笑)」

アイスダンス転向当初は技の違いに苦心。姉弟だけにケンカも 【スポーツナビ】

―――さて、基本的なことですが、お二人は何歳でスケートに出合いましたか?

クリス「キャシーが7歳で、僕が5歳のときです。シングルスケーターとして、二人一緒に始めました。二人とも、ダブルアクセルやダブルルッツも跳んでいました」

キャシー「ブレードも靴も違う(アイスダンスとシングルではブレードの長さやつま先部分、靴の高さなどが違う)けど、クリスは今でもジャンプが跳べますね」

クリス「そう、アクセルとダブルサルコウとダブルトウを」

キャシー「本当に危ないです(笑)。そして、私が14歳でクリスが12歳のときに、アイスダンスを始めました。(シングルに必要な)ジャンプとスピンが、私、本当に得意ではなかったんです(笑)」

クリス「『(ジャンプのない)アイスダンスはイージーだから!』って言われるけど、全然違う(笑)!」 

キャシー「昔、母がアイスダンスをやっていたこともあって、『アイスダンス、やってみない?』って言われていたんです。最初からクリスとのアイスダンスカップルでしたけど、12歳の時のクリスは小さかったから、リフトができなくて大変でしたね」

クリス「すぐケンカになるし、いつも母に『(ケンカを)やめなさい!』って言われていました(笑)」

―――それから4年後の06年、キャシー18歳、クリス16歳で迎えた全米選手権ではノービス部門(シニア、ジュニアに続くクラス)のチャンピオンになり、その後日本代表に。いつ頃から、世界レベルで戦うダンスカップルとしての気持ちが養われてきたのでしょう?

キャシー「そういう気持ちは、日本代表として試合に出始めた時から養われていますが、クリスの膝の手術(過去に3度手術)を通して、いろいろなことが変わってきました。特に昨シーズンから今シーズンにかけて、すごく考えるようになり、奥の深い、本当の意味での強い心が確立されました。昨シーズンの世界選手権は、身体的には万全で臨んだんですけど、そちらに集中しすぎてメンタル面での準備が 100パーセントできていなかった。メンタル面はとても大切で難しい。試合前に少しでも、どんなに少しでも、メンタルに影響があったり、欠けていたりしてはいけないってことを痛感しました」

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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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